白雪姫パロで照れる紺野主がお題でした。

 白雪姫パロディ
 紺主・平みよ・その他GSキャラが無節操に出てきます。すべては冗談です。

 平凡ながらもよく国を治める王と聡明なる王妃により、黒い森の国は穏やかに繁栄していた。
 やがて王妃は身ごもり、万民の喜びの中ゆっくりと新しい命をはぐくんでいく。
「いた…」
「どうしたの、大丈夫?」
 雪の降る日、赤々と燃える薪ストーブの横で縫い物をしていた王妃は、針で指を突き刺し、あふれる血を止め
ようとちゅっと指を吸った。
 執務を中断した王はゆっくりと妻に近寄り、心配げに跪く。
「大したことないったら」
 妊娠してからというもの王は過剰なほどに心配性になった、と王妃はその優しさをくすぐったく思う。
「なんだ、安心した」
 彼はそういってそっと腹に触れる。小柄な王妃の腹は大きく膨れ子の健やかさを物語っている。ふと、溢れる
血から雪の降る外に目をやり王妃が呟いた。
「肌は雪のように白く、唇は血のように赤く、髪は黒檀のように黒い子供が欲しい…ってバンビでしょ?白雪姫
役。カツラ?」
「みよちゃん、しーっ!」
 メタ発言に、真面目な王は慌てる。
「…まあ、白雪のような子が、欲しいわ」
「そうだね」
 無理矢理軌道修正し、二人はそっと寄り添った。

 それから一度月が満ちて、欠けた。
 王妃は望んだとおりのうつくしい赤子を産み落とし、しかし自身は床に伏しがちになってしまう。しかしそれ
でも、出来る限り姫を慈しみ、育てた。
「おとうさま」
「ん、なんだい」
 ほてほてと歩いてくる娘を抱き上げ、王はその頭を撫でた。五つになった姫は既に愛らしいというよりは美し
く、周囲の国から婚約の要請が届くようになっていた。
「おかあさまのぐあいがわるいって、ほんとうですか」
「…、そうだなぁ」
 ひゅっと息を呑み、王は言葉を濁す。既に、王妃自身から彼女の寿命を告げられていたのだ。星を読み、占術
を得意とする彼女の予言は外れる方が珍しい。自身を占うことを嫌う彼女も、娘の行く先を案じて禁を破ったら
しい。
「おかあさま、わたしにはいつもどおりです」
「そうだな、彼女は強い人だ」
 しかし王妃は日に日に弱り、黒い森が雪に覆われる頃、その命の灯火は燃え尽きてしまう。
 見晴らしのいい部屋のベッドで、国王夫妻は最後の別れを惜しむ。
「悲しまないで」
「無理だよ…」
 やせ細り土色になった手を何とか持ち上げ、滂沱の涙を流す夫の頬に触れる。熱い涙が手先を温めるようだ。
「あなたは、王様なの。それに姫もいるわ」
「その役割の前に、俺は一人の人間なんだ」
 強くない優しい人。何も特別なものは持っていないけれど、いつも精一杯の愛をくれた愛しい人。
「…後添えを。後添えを頼んでいるから」
「ばかな!」
 きっと、悲しみに沈んで政務なんてできなくなってしまうだろうから、強引にも王妃は後添えを用意していた。

「どうも!」
「…チッ」
 呆然とする王と、彼を労わるように立つ幼い姫の前に現れた後添えの王妃は、恐ろしく綺麗な金髪の女…か、
まあ、女だった。そういうことだ。
「美人だろ?これ、花椿さんが渾身の出来だって…イテッ」
「琉夏オメェやる気あんのかコラ」
 兄だという厳つい狩人風の男を伴い輿入れした新王妃は、調子よく喋った。
「はじめましてこんにちは、白雪姫です」
 ぺこん、と頭を下げる幼い姫に、新王妃、つまり継母と狩人は相好を崩す。
「やっべ、ちっちゃい頃の雪子に超似てる、欲しい!」
「…どこから見つけてきた」
 お母さんが雪子お姉さんといとこなんです、とお行儀よく答えた少女を二人は撫で回す。
「あの、桜井君たち…お芝居…」
 遠慮がちに提案する平の言葉も聞こえてないようだ。
『はいカーット!桜井兄弟!ちゃんとしないとロケ弁出さないよ!』
 メガホンでがなる花椿に、しぶしぶと言った様子で継母は口を開く。
「噂のとおり、この国のお姫様はとっても綺麗ね、うん超カワイイ!でも私の方が美しいわ!」
 継母が自室としている部屋には大きな鏡があり、彼はそれを軽く叩いた。
「鏡よかがみ、世界で一番美しいのは誰だっけ」
「琉夏、お前じゃ無い事だけは確かだ」
「セイちゃんセリフちがうよ」
 ガァンと鏡の横を蹴り付ける継母に、鏡は眉間に皺を寄せる。
「うるさい!言えばいいんだろう!ウツクシイノハアナタデス」
「もっとー気持ちをこめてー」
 嫌だ!と拗ねてしまった鏡は二度と返事をしなかった。

 しかし、数年後。白雪姫が美しく成長するやいなや、鏡は大声で喋った。
「ほら、もう一番美しいのは琉夏じゃないぞ、こいつだ!」
「設楽先輩、そんなに琉夏君のこと褒めるの嫌だったんですか…」
 鏡の前に引っ張られた白雪姫は、半ば困惑している。お役ご免とばかりにさっさと壇上から消える背中を見つ
め、姫ははぁと溜息をついた。
「コイツが俺より美しいなんてありえない!…まあすっごい可愛いけど」
「イチイチ本音を出すな」
 本音だだ漏れな継母に、狩人はいい加減突っ込むのも疲れてくる。
「アレだ、白雪姫を森で始末してくりゃ良いんだろ」
「コウが言うと洒落になんない」
「ウルセ」
 ほら行くぞ、と強引に腕を引っ張られ白雪姫は森へと連れ込まれてしまう。

 鬱蒼とした森の獣道すらない藪に放りこまれた白雪姫は、逃げることもできずに狩人を見上げた。無理矢理つ
れてこられた所為で、服のあちこちが破け裾は泥まみれになっている。
 その少女めがけ狩人は、きりきりと弓を絞り無表情に矢を放った。
「…っ…!あ、あれ?」
 痛みと死を覚悟した姫はそれが何時までたっても訪れない事を訝り、ギャァという獣の声にびくんとした。
「オマエの心の臓か肝を持って帰れと言われてんだ。その代用だ」
 少し遠いところで、狩人の矢に射殺された猪が横たわっている。ナイフ一本で器用にし止めた獣を解体し、血
にまみれた肉を布袋に入れて狩人はさっさと立ち去ろうとする。
「あの、ありがとうございます!」
「オマエは死んだんだ、俺には何も聞こえネェよ」
 さて命は助かったものの、全くの無一文で森に放り出され、白雪姫は途方にくれてしまう。とりあえず座った
ままではどうにもならないので、立ち上がり、歩き始める。
 王宮で履いている柔らかい羊革底の室内履きのままなので、直ぐに足が痛くなってしまい長いスカートも藪に
切り裂かれたちまち脚が傷だらけになる。
「喉、渇いたな…」
 とにかく道か川泉に出て、人里へ戻らないと死んでしまう。そう思い足を引きずりながらよろよろと歩くと、
僅かに空気が湿り気を帯び、水場の気配がした。
 這うように泉へ近づき、その澄んだ水を掬ってのどの渇きを癒す。あまりのおいしさに、無心に水を飲んでい
ると、後ろからくすくすと笑い声が聞こえ白雪はびくんと驚いてしまう。
「ごめん、驚かせたね」
「いえ…、あの…」
 身なりのいい青年が鹿毛の馬を連れ泉の入り口に立っていた。理知的で眼鏡をかけた様子を見るに、学者か能
吏のようだった。
「紺野先輩、王子様っぽくないです…」
「僕が断ったんだよ。僕の王子ルックなんて想像しただけで笑いものだろう?」
 白いお馬さんに乗って煌びやかな装束でも似合うと思うのに、と雪子は眉をはの字に下げる。
『バンビ、演技して』
 ミヨの突っ込みにはっと我に返った二人は、演技を再開する。
「君は迷子かい?」
 白雪の衣服や手足の傷つき具合からそう判断したのか、青年は優しく尋ねる。なにかしら、真っ当ではない事
情があると思えた。
「いいえ、あの、家から追い出されてしまって、行く所が無いんです」
 自分でそう口にすると、捨てられた実感が湧いてきてじわりと涙が出てくる。もう二度とあの懐かしいふるさ
とには帰れないと思うと、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「そう…、ん、そうだこの森に学者が住んでいるんだ。僕は彼に教えを請うているんだけど、たしか使用人を探
していたと思う」
「ほんとうですか?私、雇ってもらえますか?」
「それは実際に顔を合わせないと判らないな、結構偏屈な男だから」
 それでも一縷の望みであることには変わりがない、と白雪はその学者が住む小屋まで連れて行ってもらうこと
にした。
 昼でもなお暗い黒い森の奥に、小さなレンガ造りの小屋が建っていた。小さいながらも畑がありその横には薪
作りの道具が置いてあって、人の居住を知らせている。
「こんにちは」
「開いている、入れ」
 無用心にも施錠していないドアを開けると、その中は散乱した書物や地球儀など何かわからない道具で足の踏
み場も無い状態だった。
「先生、使用人候補を連れてきました」
 そう青年から呼びかけられて振り向いた男は、目を眇めて白雪を見る。
「又えらく品のいいのを連れて来たな」
「…、あの、なんでもします!行く所が無いんです…!」
 ランプの明かりに照らされた学者は、無精ひげとぼさぼさの頭もあいまって多少恐ろしく見えた。
「そんなこと、年頃の女の子が言ったら駄目だ。まあ良いだろう。俺が書き物をしているときは邪魔しないでく
れ、それだけだ」
 そういって又くるりと机に向かってしまう。しきりに羊皮紙に何か書き付けては頭を掻いている。
「あの、良いんでしょうか」
「いいんじゃないかな。暫く厄介になるといいよ」
 青年は良かったねと言い、白雪の頭を撫でる。それがくすぐったくて、姫はふるふると頭を振った。

 それから白雪の森での生活が始まった。
 学者は存外優しく、新しく動きやすい簡素な衣服や彼女用の生活用具などを準備してくれた。だが、暇ではな
いらしく、食料の調達方法や森のルール等は別の人物に聞けと言われてしまう。
「他に人間なんて居ないよね…」
 そういいながら白雪は桶をふりふり水汲みへ向かう、すると泉に先客が居ることに気づいた。人間ではとても
持てそうにもない巨大な容器になみなみと水を汲み、それを軽々と持ち上げる姿が一瞬熊に見え小さく悲鳴を上
げてしまう。
「ん、何だ。おまえ誰だ?」
 逃げることもできずにふるふる震える白雪に大またで近寄った熊は、しかし獣ではなく人間の姿をしていた。
「え、えっと、あの、学者さんの家の、新しい使用人です!」
「ああ、嗅ぎなれないにおいが昨日からしてたのはオマエだったんか」
 にっと笑った顔は存外幼く、白雪も安心して息をつく。
「あなたは…?」
「ああ、俺、ドワーフだ。…ドワーフってなんだ?」
「…森に住む人だよ、不二山君」
 ああ、と納得して彼は台詞を続ける。
「森の事ならだいたい解るから、何かあったら聞いてくれ」
 そう言って彼は水桶を持ち森の奥へ消えていった。
 それから、食料の調達方法や細々とした用足しなどをドワーフは手伝ってくれるようになった。彼の住む洞穴
周辺には見たことのない種類の花が沢山咲いており、夢のような光景が広がっていた。
「凄いねえ、これ全部あなたが育ててるの」
 満開の花畑に水をまく彼の後について、白雪は溜息をつく。
「ん、精神修行の一環だ」
 一箇所花が折れているのを見つけたドワーフは、白雪を置いて走り去ってしまう。
 その隙をつき、飽きることなく花を見つめている姫の後ろに煙のように男が現れた。
「アンタに恨みは無いケド、死んでもらうよ」
 ニッとわらった派手な男は、細いラリエットを少女の首に巻きつけ強く締め上げた。
「あ…、ひ…っ」
「―ゴメン雪子さん、痛くない?」
 大丈夫だよ、と後輩に囁き白雪ははたりと花畑に伏した。
「コレで王妃様も安心っと、じゃ!」
 現れたときと同じく男は掻き消えてしまう。
「…!白雪!」
 少女の姿が見え無い事に焦ったドワーフは、伏した彼女を見つけ青褪める。
「まず呼びかけ、反応がなければ救急車を呼ぶ。その後姿勢を正し、気道の確保」
「げほっ、げほっ」
 ドワーフの的確すぎる一次救命処置により白雪は目を覚ました。
「何だおまえ、誰かに狙われてんのか」
「お継母様…まさかね…」
 しかし、今度は学者の家で煮炊きをする白雪の前に派手な男が現れる。
「ちょりーっす、これ学者さんに手紙」
「ありがとうございます!」
 郵便配達人に化けた男は、ニコニコと白雪に話しかける。
「あとコレ、オレからアンタに。折角可愛いのに飾り気が無くて勿体ねーって」
 綺麗な銀の櫛を、男は遠慮する白雪の髪に挿す。するとたちまち彼女は紙のような顔色になり、倒れてしまう。
「今度こそ、一件落着っと」
 櫛には毒が塗ってあり、それで白雪の命を狙ったのだった。
「白雪、コーヒーのお代わりは…、っ!」
 書斎から這い出てきた学者は、倒れる少女を見つけ駆け寄る。
「王家の紋章入り呪い櫛…か、あちらも本気を出してきたな」
 実は、水面下で幾たびもの襲撃を防いでいた学者は眉間に皺を寄せる。強い呪いのかかった櫛に、結界を張っ
た小屋にたどりつく優秀な暗殺者と、手段が激しくなってきている。
 すっと櫛を髪の毛から抜き取り、何度か髪を撫でるとふっと白雪は目を開いた。
「あれ?」
「疲れてるんじゃないか?」
 ごめんなさい、と跳ね起きて白雪は又こまこまと働き始める。もともとは一国の姫だと言うのに、水仕事もい
とわずよく働き、臆病な森の住人や気難しいドワーフとも仲が良い。学者の記す文献にも興味を持つ聡明さもあ
り、全てを失ってなお輝くその生命力がまぶしい。陳腐な宗教など信じない学者でも、天使とはこの娘のような
者を言うのではないかと思ってしまう。
 最初にこの小屋へ彼女を連れてきた青年、実は隣国の王子である彼が彼女を見初めたのも頷ける話だ。満月の
日にこの小屋を訪れ学者に教えを請う王子は、訪問の度に彼女と親しくなっていた。学者が彼女の身分に見当を
つけると彼は喜び、彼女を娶る調整を始めた。
 一刻も早く、彼の国へと白雪を送り出し身の安全を確保させたいとの願いもむなしく、三度白雪は倒れてしま
う。
 目立った外傷も無く、呪いや毒の類も見当たらない。一日経っても、二日経っても目を覚まさない白雪に、森
の住人らも心配して集ってくる。
「くそっ…、何だ。何で彼女は起きないんだ」
 色々な手段を尽くして王子と学者、それにドワーフが手当てをしても、彼女は目を覚まさない。いよいよ打つ
手なしとなり、葬儀のかわりにと美しく眠ったままの白雪を花畑に横たえ、男たちはうな垂れ、しくしくと動物
や妖精たちが泣き続ける。
 そこで、花の中から陽光の色をした小さな妖精が現れ、すんすんと鼻を鳴らした。
「あの、白雪さんの口から毒のにおいがしませんか?」
 おどおどと告げるその様子に、周囲ははっと振り返る。
「解らないな」
「俺もだ」
 学者とドワーフが眉間に皺をよせ、しかし口を笑みの形に歪めて王子を見た。
「これは君が確かめないとなあ、生徒会長君」
「見せ場ッすよ、紺野さん」
 何故か、今この場面に居ない登場人物まで全員舞台外からこちらを見ている。
 うろたえる王子は、かちこちと油の切れたような動きで白雪の横にかがむ。
「寸止めはだめだよカイチョー!」
「…村田も逃げンなよ!」
 まさにフリで逃げようと思っていた二人は、ぎくりとしてしまう。まさかこんな衆人環視の中キスしようこと
になるとは、と固まる。
「キスシーンはないって言ってたのになあ、花椿さん」
「…先輩、私とキスするの嫌ですか?」
 あまりに躊躇する王子に、姫は少し拗ねてしまう。そりゃあ恥ずかしいけれど、白雪姫は王子様のキスで目覚
めるしかないのだ。
「や、そんなことないよ。ごめんね」
 耳まで赤くした紺野がようやく唇を落とすと、周囲からは盛大な冷やかしが上がった。


「お疲れ様でしたー!」
 上機嫌なカレンが、キャスト全員にねぎらいの声を掛ける。
「もう大満足!最高!、あ、ロケ弁はそっちね、謝礼は後ほど渡すから」
 実はカレンが関わるブランドのプロモート映像を作成していたのだ。衣装やセットは全てそのブランドのもの
で、今春のコンセプトであるスノーホワイト・ビューティをテーマにしていた。
 お話仕立てにしたのは、低年齢層向けであるブランドの顧客に受けるように、との判断らしかった。
「あ、後で人気投票するから、一位になった奴には重ねて謝礼出すよー!」



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