結婚狂騒曲

※GS1主→小波美奈子 GS2→海野あかり
 氷室×GS1主、姫条×奈津実、氷上×GS2主
 大迫ちゃんの雪代とS紺野さんの雪子ちゃんが同時に出る
 以上に耐えられる方のみご覧下さい

 大迫

 まだまだ生徒と先生という意識が抜けない二人は、恋人同士というより兄弟のような雰囲気に陥ることが多か
った。
 雪代は大迫と出会ってから、彼を追いかけて一生懸命努力して人並みに、そしてそれ以上に羽化した為とても
純粋な面を持っている。要するに男性を異性として意識したことが無い上に自分の魅力に気付いていないのだ。
 ローズクイーンになった後、無防備すぎるまでにあちこちに攫われそうになるのをカレンやみよに桜井兄弟、
さらにクラスメイト総出で防いでいた事は記憶に新しい。

 さて、それで困ったのは大迫だった。彼は勿論教師であるがそれと同時に若い男でもある。雪代がどこで大迫
先生を一人の男性に切り替えるか、むしろそのタイミングを教えたほうがいいのかを悶々と考えていた。
 もちろん聡い彼女のことだ、脳内で理解はしているのだろう。しかし、行動を見ているとどうも実感はしてい
ないようだった。
 あまり頼るのは良くないと思いつつも、又大迫は氷室に相談してみることにした。

 二人連れで氷室の住む瀟洒なマンションへと訪れると、彼の妻が笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは美奈子さん」
「雪代ちゃん!いらっしゃい」
 おじゃましますと深々と御辞儀をする雪代を、きゃあと楽しそうな声を上げた女性がリビングへ引っ張ってい
く。共通する境遇に何やら親近感を持ったらしく、彼女たちはとても仲が良い。
「ああ、来たか」
「すみません、日曜にお邪魔してしまって」
 構わない、と読んでいた本を閉じた氷室は窓際の椅子からリビングまで歩いてくる。
 男二人はテーブルに着くが、女性陣はソファで結婚式のアルバムを広げ盛り上がっている。
「アルバム、出来たんですね。いや、良い式でした!」
「そうか…」
 氷室と美奈子は、式だけ行って披露宴等はしない予定だったらしい。しかし、美奈子の友人が騒ぎ立て理事長
に密告し、いつの間にか小規模ながらレストランで披露宴まがいのことをやる事にになったのだそうだ。
「で、今日はなんだ」
「いや、毎回申し訳ないんですが…」
 生徒から女性へ、そして恋人から妻へと変遷したその関係を、どう受け止めているのか。立ち入った質問だが、
遠慮は要らないとの氷室の言葉に甘えてしまう。
「そう…か、君たちは実に健全なんだな」
「え?」
「私はあれを、―美奈子を単なる生徒として見た期間が短い」
 明晰で溌剌とした輝くような美奈子を、一年が終わる頃からは学級のエースとして、吹奏楽部のホープとして
特別扱いをしていた。彼女もまた、氷室のことをはっきりと好きだと思っていたらしい。
「思えば、無茶だと思えるような行動も沢山した。皆見てみぬ振りをしていてくれたんだと、私は理解している」
 クク、と笑う氷室はそれでも幸福そうだ。
「良いじゃないか、私の知り合いで結婚後も旦那を先生と呼ぶ方が居る。まあ大学教授とその奥様なんだが」
「そうですか…」
「力になれず、済まんな」
 いいえ、ありがとうございます、と大迫が頭を下げると又氷室が笑う声がした。
「大迫先生は真面目すぎるな」
「え?」
 真面目な堅物であると同時に子供っぽく狡猾な面も持っている氷室は、真っ直ぐすぎる後輩を微笑ましく思っ
た。

 結婚式

 新婦友人スピーチ

「美奈子…!オメデト…ぐすっ、よがっだねえ…」
 号泣して言葉も出ない奈津実につられて、美奈子もぼろぼろと涙を零してしまう。
「ずっと好きだったもんねぇ…、マジアタシ嬉しくて…ひっく…。最初はなんでヒムロッチなんだってすごく腹
が立ってさ、アタシ超怒ったよね。絶対美奈子にはもっとイイ人がいるなんて怒鳴ったけど…」
 そこで一度立っていられなくなりしゃがみそうになった奈津実を、素早く立ち上がり近寄ったまどかがそっと
支える。
「ゴメン、アリガト。…アンタめっちゃ頭いいし運動も出来るしジョーヒンだしさ、それなのにアタシのこと親友
だって言ってくれて、すごくすごく嬉しかった。だから、だからだよ、キョーミナイなんて言わずに真剣に反対したの」
 そこで、奈津実らしい表情を取り戻して背筋を張り、マイクに向き直る。
「でもさ、わかった。アタシがまちがってた。ヒムロッチはやさしいよ。カタブツだしウルサイし細かいしレー
ケツだけど、アタシとかまどかのこと差別しなかったもん」
 そっと眼鏡を直す振りをしている氷室を見て、美奈子は泣きながらも少し笑ってしまう。
「まあ、卒業してからはウザイぐらいラブラブだったけどねー」
「ちょオマエ言い過ぎや、はよ〆ぇ」
 ざわっとどよめく来客たちに、新婦は赤くなり新郎は気まずそうな顔をしている。一人おろおろするまどかを
尻目に、奈津実はスピーチを続ける。
「ヒムロッチ!ゼーッタイ美奈子を幸せにするって約束して。じゃないとアタシ認めないんだから」
 びしっ、と睨みつけられ氷室はゆらりと立ち上がった。
「藤井、私が美奈子から有り余るほどの幸福を貰っているのだ。だから、私は…彼女との絆を守り抜く覚悟が出
来ていることを、君に誓おう」
 回りくどい言い方だったかと氷室が不安に思った時、奈津実がにまっとわらって大声を張り上げた。
「よろしい、君の評価はAだ!」
 その物真似に新婦以下全員が爆笑した。

 新郎親戚

 天之橋理事長の挨拶は簡潔でユーモアに富んでおり、普通の長ったらしい上司挨拶とは一味違っていた。
「はばたき学園の理事長はユニークな人なんだね」
「あ、格くんもそう思った?」
 正式な披露宴ではない、という理由から格は比較的前の方の席で料理に舌鼓を打っていた。あかりも氷室と美
奈子両人と面識があり親しくしていたので、是非にと呼ばれて来たのだ。
「それに、なんだか美奈子さんのお友達とか先生方も楽しそうな人ばかり」
「そうだなあ、もうちょっと格式の高い感じかと思っていたんだけどな」
 三原色からのお祝いの絵が飾られ藍沢秋吾からの祝電が届く等、かなり一般離れした式であるのに酷くアット
ホームだ。感動的かと思われた新婦友人スピーチですら最後は爆笑だった。ひな壇に居る二人も、泣いたり笑っ
たり忙しい。
 一度衣装変え、ということで新婦が退席する間も終始和やかだ。白くてふわふわのドレスから黄色とオレンジ
のすとんとしたドレスに着替えた美奈子は、割れんばかりの拍手で迎え入れられる。
「式の白無垢も素敵だったけど、今日のドレスも綺麗ね」
「憧れるかい?」
 真っ直ぐに聞いてくる格に、あかりは真っ赤になってしまう。
「あの、えと、…うん」
「そうか、じゃあ僕も頑張らないとな。あれ、花椿吾郎の一点ものだって」
 微妙にずれた答えに、ちょっとがっかりしてしまう。別に高級なドレスや素敵なお祝いなんて要らないのだ、
ただ格のお嫁さんになりたいだけなのに、としゅんとなる。
「ごめん、また僕が何か気のきかない事を言ったか?」
「う、ううん」
 眉毛を下げて覗き込んでくれる眼差しは優しい。お付き合いを始めて五年が経ったけれど、変わらないその気
遣いに胸が温かくなる。
 テーブルの下でぎゅっと手を握ってくれるのが嬉しくて、えへへと笑うと格も表情を和らげて笑んでくれた。

 新婦弟

「タマ!酒が足んねーぞ!」
「はいはい」
 玉緒が一人暮らす部屋で、尽がべろべろに酔っ払ってくだを巻いている。
 コップを持って台所へ行くと、心配そうに雪子がワンルームの部屋を伺っているのと鉢合わせた。
「あ、ごめんなさい」
「いや、こっちこそ本当にご免ね」
 コップをすすいで水を注ぎ部屋へと戻ろうとする玉緒を、少女は袖を引いて止めた。
「お酒、良いんですか?私買ってきますよ」
「大丈夫。大体、明日二日酔いだったら困るのは尽なんだから」
 明日は尽の姉と氷室先生の結婚式なんだそうだ。非常にお姉さんのことが好きな尽は、昼間から呑んで人に
絡み、カフェと居酒屋を追い出され最終的に玉緒の家に突撃してきたというわけだ。
 偶然居合わせた雪子に構うことなくどっかりと座り込んだ彼は、酒を要求した後おいおいと泣き始めた。

「大体さ、氷室美奈子って語呂おかしくね?つーかマジでうちのドンくさい姉ちゃんを嫁に貰うとか物好きもい
いとこだよ!」
「はいはい、尽、もうその辺にしておいたら」
「やだ」
 もう酒の味もわからなくなっているのだろう、水を飲みながらそれでもぐだぐだと喋り続ける。
「明日、お姉さんの結婚式で二日酔いとかみっともないよ。ねえ雪子」
「は、はい。きちんとお姉さんを晴れ姿を見てあげてください」
 ちんまり正座をしてびくびくと伺う雪子を、尽がぎろりと睨む。
「なぁーにが、ねえ雪子〜だよ。どいつもこいつもでれでれしやがって」
「尽、いい加減にしないか」
 ばん、と強めに背中を叩かれ酔っ払いはげほげほと噎せてしまう。
「結婚式の後に幾らでも話は聞いてあげるから、今日はもう寝よう。あした式の最中に吐いたらどうするんだ」
 うーと唸り、ぴたりと黙ったかに見えた尽はぼろぼろと泣き始めた。
「やだよー、姉ちゃん嫁に行かないでよー…」
「やっと本音が出たか…」
 座卓に突っ伏して泣き続ける彼を見て、思わず雪子ももらい泣きしてしまう。
「全く…、君まで泣くのかい」
「だって…ぐすっ。玉緒さんだって、お姉さんが嫁ぐことを想像したら…っ、寂しいでしょ?」
 そう言われて、ふと想像してみるが全く何の感傷も感じなかった。
「いや、僕はあまり…」
「タマの薄情者!ううー」
 そのうちに泣きながら眠ってしまった尽を二人で送り、帰宅する頃には深夜過ぎになっていた。
「ふう、全く…」
「でも、あそこまで想われるなんて幸せなお姉さんですね」
 にこ、っと笑う雪子の頭を撫でて玉緒も笑った。
「もし、万が一僕が姉の結婚式であんなふうになったら、慰めてくれるかい」
「ええ、もちろん」


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