スケートデート

「君はスケートができるか?」
 唐突にかけられたその言葉に、雪代は驚く。わざわざ寒いときに寒いところへ行き氷の上を滑る行為が、藍沢
と結びつかなかったからである。
「え…小学校のとき行ったきりなのでちょっと…」
「そうか」
 もうもうと煙草の煙が篭る書斎で、藍沢は唸っている。どうやら原稿で行き詰っている部分があるらしく、こ
このところずっとこんな調子だ。
 そっとコーヒーを置いて去ろうとしていた雪代は、男の言葉の続きを待った。が、藍沢は不機嫌そうに頭を掻
くだけで振り返りもしない。
「でも多分、一時間くらい練習したらどうにかなると思いますよ」
「そうか」
 返事が変わらないので、これ以上の会話は無理だと静かに退室した。
 没頭型の藍沢は、集中すると食事より原稿を優先する。いつでも温めて食べられる様にとシチューを作り、雪
代は帰り支度を始めた。が、不意にかちゃんとドアの開く音がし、煙草の匂いが漂ってくる。
「秋吾さん?」
「帰るのか…?ああ、もう夜なのか」
 久しぶりに向き合う顔に、雪代は思わずにこにことしてしまう。
「いえ、邪魔にならないように帰ろうと思っただけです」
 まだ時間は大丈夫だから構って欲しいな、と思うもののそれは口には出さない。その気持ちは勿論男に見透か
されているだろうけれど。
「今俺、臭いぞ」
 そう言いながらも腕を開いてくれる。少し恥ずかしいが、小走りで近寄ってぎゅっと抱き締めてもらう。
「しゅうごさん…」
「ん」
 上向いて男の顔を覗き込むと、すかさずキスが降って来る。
「え、ぁ…、う…」
「キス、したかったんだろう?」
 にや、と笑われ雪代は真っ赤になってしまう。そんなことは無いです、と言い切れない自分の浅ましさにきゅ
っと眉間に皺を寄せた。
「…ご飯、食べますか?」
 からかうような視線をそらすため、わざとらしく会話を飛ばす。シチューはまだ温かいから、ご飯を炊けば直
ぐに晩御飯になる。
「いや、後で頂くよ。で、唐突で悪いんだが…スケートしに行かないか」
 煙草臭い息を気にしてか、顔を逸らし気味に藍沢が提案した。
「へ?」
「いや、気分転換というか…うん、ネタ拾いにな」
 そういえば、今藍沢が取り組んでいるのは冬をテーマにした文芸雑誌の原稿だったな、と思い出す。
「あまり上手くないですけど、私でよければ…」
「そうか、ありがとう」
 シャワーを浴びてくる、と言ってもう一つキスをくれ歩いていく藍沢の背中をぼうっと見つめた。しばらくは
幸せに浸っていたが、久しぶりのデートだと思うと急に、自分の衣服や化粧が気になってくる。
 夜のスケート場はきっとカップルだらけだろうし、とても明るいはずだ。藍沢の家に来る用の服ではちょっと
恥ずかしいような気がした。

 しかし。
「ほら、来い」
「っひゃ」
 十年ぶりくらいに履くスケート靴では、氷上でなくとも立つこともままならない。服や他人を気にしている余
裕は全く生まれなかった。しかもナイトデートキャンペーン等と銘打って、青やピンクの照明に染まったリンク
に目がくらくらしてしまう。
「やぁあ!」
 案の定、何とかリンクにたどり着いた途端べしゃりと滑ってこけてしまう。藍沢が片手で掬うように抱きとめ
てくれたが、それでも脚が恐怖にがくがくしてしまう。
「落ち着け、体重こっちにかけていいから」
「うー、ぅ…」
 がくがくとへっぴり腰で、何とか両足で自重を支えてみる。周りの目など気にする余裕も無く、上半身をべっ
たりと藍沢に抱き締められたまま、何とか安定しようと足で氷を掻く。
「ひっ、滑る!」
「そりゃ滑るさ、脚を内股気味に…」
 くくっと笑う藍沢は器用に後ろ向きで滑り、スケートの感覚を雪代に教えていく。
「そう、体の力を抜いて」
「や、離さないで!まだ!」
 はいはい、と言いながら縋ってくる体に腕を回しなおす。
 スケートで密着デートなどベタ過ぎて小説にも使えないネタだが、実際やってみると悪くないものだと思い、
藍沢は自分の色ボケぶりを自嘲した。恐怖で涙目になり、縋ってくる少女が可愛くて仕方が無い。
 勿論初心者用の歩行具や監視員兼コーチも配置してあるのだが、それを使わせる気はさらさら無い。
 三十分ほど後、雪代は何とか抱きつかずに滑れるようになった。
「絶対、ぜったい手を離さないでくださいね!」
「わかったわかった」
 よろよろとまだ若干へっぴり腰のまま、藍沢の手を握って氷上を歩く。その様子を楽しそうに眺めながら滑る
男の足元には迷いが無い。
「秋吾さん、運動苦手って言ってたのに!」
「まあ、スケートやボウリングのような娯楽は人並みに出来るさ」
 その言葉に、ぷうと雪代は膨れる。大人でスマートに何でもこなす彼の底知れなさを覗いてしまい、その過去
にほんの少し嫉妬してしまう。
「ほら、余計なこと考えるとこけるぞ」
「きゃ、や!ぁ!」
 しゃっと逸れた右足に左足が追いつかず、脚が開いてこけそうになるが、すう、と寄ってきた藍沢に正面から
抱きとめられ事無きを得る。
「ありがとうございます」
「どうだ、まだ大丈夫か?」
 顔を埋めた男のセーターからは、まだほんの少し煙草の匂いがした。
「もうちょっと滑ります…」
 このまま、と最初のようにぎゅっと藍沢にすがり付いてみる。
 しかし滑り始めのように余裕が無いわけではないから、周りの状況が見える。そこらじゅうにいる、腰を抱い
たりくっ付いたまま滑るカップル達と同じことをしていると思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
「秋吾さん、はずかしいですか?」
「いいや」
 下手に手を離すとこけるからだろう。頬を真っ赤にして、でも身を離すことができずに恥ずかしそうに聞いて
くる雪代に藍沢の悪戯心が刺激される。柔らかく少女の唇にキスをして、悲鳴を上げこける彼女を役得とばかり
に抱き上げた。

言葉より詩を
※非常にポエムでかゆいです
※みよちゃんと平が友達で出ます。

 藍沢の書斎には溢れんばかりの本があり、更にそれは常に更新され続けている。彼がふらりと出かけては買っ
てくる本や雑誌は勿論、作家仲間から届く書籍や資料として求めるもの、献本が引っ切り無しに届く。そうして又それ
を藍沢は凄まじいまでの貪欲さで読みこなしていくのだ。コンスタントに作品を生み出し続ける職業作家として
当然のことなのかもしれないが、初めの内、雪代はその姿に圧倒されてしまった。

「へえ、やっぱり作家さんって凄いんだね」
 心から感心したように言う平は、溜息をついてカフェオレをかき混ぜた。
「うん、凄い」
 その隣に座るみよも、珍しく率直に認める。
 雪代がアルバイトをしている喫茶店は二流大学に近く、ちょくちょく友人二人は顔を出してくれた。
「そんな藍沢先生に必要とされるなんて、村田さんはやっぱり凄いなぁ」
「そんなことないよ」
 苦笑して答える雪代に、みよが平の足を踏んだ。ぎゃ、と声を上げた可愛そうな青年は咎めるような視線をみ
よに向けるものの、反抗する言葉は出ないようだった。
「バンビを女神様みたいに言うのはやめてって言ってるでしょ」
 涼しい顔でココアをすするみよは、とげのある言葉を吐いた。
「え、あ、ごめん」
「いいの、平くん。ごめんね」
 いや、村田さんが謝ることじゃ、と慌てだした平を見て、今度は二人で少し笑う。

 みよが強くものを言ったのには訳があった。
 近づけば近づくほど藍沢との距離を感じてしまう雪代が、彼女に相談をしたからだ。
 莫大な知識を日々蓄え己と戦いながら執筆をする男が、何故なにも持っていない小娘である己を必要としてく
れるのか。そういった思考に押しつぶされそうになったとき、みよを頼った。
「正直に、彼から答えを聞けば良い」
 その簡単な言葉が、雪代の背中を押してくれた。
 そして、思い切って藍沢に問いかけた。私はここに、秋吾さんの傍に居ていいんですか、と。
 一瞬豆鉄砲を食らったような顔をした藍沢は、にたりと笑った。
「当たり前だ。…理由が欲しいか?」
 雪代が素直にこくんと頷くと、更に笑みを深くして男は少女に言葉を投げた。
「おまえの種は私の体のなかで生き続ける。おまえの明日の芽は私の心のうちに花を咲かせる。おまえの香気は
私の息となり、私たちは皆一緒にすべての季節を楽しむ。カリール・ジブランだ」
 良く考えなさい、と一つキスをくれ藍沢は書き物に戻ってしまった。
 与えられた言葉を一生懸命考え自分なりに答えを出したとき、雪代の心の重石は綺麗になくなっていた。

「凄い口説き文句ね」
「え、おまえの?瞳は?」
 一通りの顛末を友人らに聞かせると、みよはうらやましいといってココアに浮かぶマシュマロをつつきまわし、
平は素直に混乱した。

年賀状

 藍沢

 官製年賀状の干支柄がついたものに、右上がりの癖字で短いあいさつ文が書いてある。裏も手書きで住所と宛
名が記されているだけで、こだわりが全く感じられない。ただ、全て青色のインクを使った柔らかな万年筆で書
かれた字である事が、少し変わっているといえば変わっていた。
 送り主は、藍沢秋吾。押しも押されぬ人気作家である。

「ほら藍沢先生、こちらが去年の年賀状リストです。できるだけ、ええ出来るだけでいいですから書いてくださ
いね!」
「わかったわかった」
 はがきの束とA4用紙数枚を藍沢に押し付ける山並書房の編集者は、ふうと一仕事終えたような溜息をついた。
「どうぞ」
「ああ、雪代さん。ありがとうございます」
 ことんと編集者の前にお茶を置き、藍沢にはコーヒーを手渡す。
「年賀状、書かれるんですか?」
 くるんと瞳を動かして尋ねる少女に、作家は溜息をついて硬い紙束を叩く。
「そうだ、作家は人脈商売でもあるからな」
「わかってるなら、毎年編集部が強制するまで書かないという態度を改めたらどうですか」
 ぎろりと眼鏡越しに睨む編集に肩をすくめ、藍沢はコーヒーに口をつける。
「うまい」
「あ、私も頂きます」
 険悪な雰囲気から一転、男二人は一服して満足気に笑む。
 大学に進学した春から喫茶アルカードでアルバイトを始めた雪代は、コーヒーやお茶の入れ方をマスターに一
から教わった。自分でも色々と、暇なときは藍沢も一緒に喫茶店やカフェめぐりをして、嗜好品飲料に関しては
かなりの知識と技術を蓄積している。
「雪代さんのお茶、美味しいです」
「ありがとうございます」
 険悪な雰囲気がこうやって緩むことが、少女は何より嬉しかった。
 その後年末年始の挨拶まわりや年末進行の調子などを延々と話し合う男二人の横で、雪代は一つのお願い事を
口にするかどうかで悩んでいた。
「じゃあ、また来年もよろしくお願いしますよ」
「はいはい、よいお年をー」
 腰を上げた編集と藍沢の後について、少女はぱたぱたと玄関まで歩く。
「雪代さんも、良いお年を」
「はい、こちらこそ今年はお世話になりました」
 頭を下げ手を振り去っていく編集を送り出し雪代がドアを閉めると、急に後ろからぎゅっと抱き締められ思わ
ずびくりと肩を揺らしてしまう。
「俺には」
「へ、何、ですか?」
「今年もお世話になりましたって、言ってくれないのか」
 くくっと笑う男に、少女は赤くなる。からかわれているのだ、と気付けただけまだましな方だろう。くるりと
体の向きを反転させ、今年は大変お世話になりました、と口を尖らせて伝える。
「何を、どういう風にお世話になった?」
「も、もう!秋吾さんの、意地悪…」
 高校を卒業してから、それはもう目まぐるしいほどに世界は色を変えた。それまでの生活だって楽しかったは
ずなのに、藍沢が現れて気持ちが通じ合ってからは、それまで生きてきた次元では説明できないほどに鮮やかな
色を持ったような気がする。
 大人でなおかつ言葉を操る商売の人間に口で敵う筈なく、雪代は散々苛められたあとキス一つで誤魔化された。
「うー」
「ほら唸るな」
 ひょいと持ち上げられ、リビングまで運ばれる。
 菓子の皿や湯のみを片付ける雪代の横で、藍沢は住所録のチェックを始める。赤鉛筆でチェックをつけていく
様子に、先程まで悩んでいたことを思い出した。
「あの、秋吾さん」
「なんだ」
 特に集中する仕事でもないらしく、気軽に顔を上げてくれる。
「年賀状、私も欲しいです」
「ああ、かまわない」
 やった、ととびはねて喜ぶ少女に男は驚いたようだった。
「何だ、手紙でもはがきでも欲しいだけ書いてやるぞ。俺はそんなに吝嗇なイメージなのか?」
「え、あ、そういうわけじゃ…」
 恋人にはなったけれど、やはり藍沢の一ファンでもあるので年賀状にはなぜか特別な思いを抱いてしまう。サ
インつき直筆年賀状なぞ、雑誌の懸賞企画でもないと手に入らないと思ってしまうからだ。
「代わりに君からも貰えるかな」
「はい!」

 小説家の大先輩や師匠、各出版社からのビジネスライクな物にフリーライターやデザイナーからの洒落たカー
ドに混じって、若干ファンシーな年賀状が一枚だけ混ざっている。特に丸字や悪筆ではないものの、歳相応の少
女らしい字で丁寧に書かれた宛名書をひっくり返すと、シンプルで可愛らしいイラストに礼儀正しい新年の挨拶
と、今年も秋吾さんといっしょにいたいです、と可愛らしい言葉が書いてある。
 晴れ着を着て待っている年賀状の送り主の下へ急ぐべく、男は車のキイをコートに突っ込んだ。

たまには冗談を

 山並書房文芸部に現れた藍沢の頬には、引っかき傷が出来ていた。三筋のそれに、通りすがりの編集者は猫で
すかと聞いていたが、彼の歳若い恋人の存在を知っている担当編集と文芸部長は渋い顔をしていた。
「何したんだ、ん?」
 遊び回っていた時でも見えるところに傷などつけなかったお前がどうした、ともう直ぐ還暦を迎える部長が藍
沢を捕まえる。
「酷いことでもしたんじゃないですか」
 雪代びいきの担当は、悪魔でも見るような目で作家を睨んだ。
「何で俺が悪者なんだ。これは事故だ」
 そんな答えでは納得しないと詰ってくる二つの視線に、藍沢は溜息をつく。
「冗談を言ってみろ、とあれに言ったんだ」

 なんとなく二人で深夜テレビを見ているときに、現代風の大喜利が始まったらしい。結構難しく機転を要する
それに、普段あまりバラエティを見ない藍沢と雪代も見入ってしまった。
「身も蓋も無い事を言え、って難しいですね」
「ああ、一言ではなく前後関係がないと中々表現できないな」
 ソファとブランケットに埋まって頷いている少女を見、ふと藍沢の心に一つの思案が浮かんだ。
「なあ、君は冗談を言わないのか」
 へ、と空気の漏れるような音を出した雪代はことんと首をかしげて藍沢を見上げてくる。
「じょうだん…ですか?」
「そうだ」
 真面目で理論的、しかし喋るのは少し苦手、という彼女には少々難しいお題だったかもしれない。しかし眉間
に皺を寄せてうんうんと考え出す生真面目な様子が可愛くて、藍沢は口出しを止めた。クッションを抱き締め唸
る彼女を撫でながら、藍沢は番組の続きを楽しむことにする。
 深夜バラエティが終わり終夜映画に切り替わったとき、流石にもう寝ようかと男が問いかけると雪代は困りき
ったような顔で見上げてくる。
「今はちょっと思いつきません…、友達に聞いたりしても良いですか」
「ああ、構わない」
 余りにも真面目すぎる様子に、つい口元が笑ってしまう。普段なら何で笑うんですかとむくれる筈なのに、
真夜中過ぎで流石に眠たいのか彼女はとろんとしているだけだった。

「又若いのをからかって…」
「言えといわれて言えるモンでもないでしょうに」
 もう完全に悪者扱いをされている藍沢は、居心地悪く編集部の椅子に腰掛ける。書類や文章データを担当に手
渡してさり気なく仕事の話へと持ち込もうとするも、で、続きはと促されてしまう。

 冗談を言えと言った翌日は日曜で、しかし藍沢は昼まで外仕事が入っていた。二人で軽い朝食を済ませた後、
今日は秋吾さんの家で待ってますと言った雪代に見送られ藍沢は出かけた。
 家で待つ人の存在は、帰る足取りを軽くする。仕事帰りにお土産はケーキがいいか何か他の物が良いかと物色
した後、上機嫌に藍沢は自宅マンションにたどり着いた。彼女の携帯電話にもうすぐ帰るとコールを入れている
ので、きっと迎えてくれるだろうと鍵を空けドアノブに手を掛ける。
「ただいま」
「…っ」
 土産だ、と言って紙袋を差し出し雪代を撫でようとしたが、いつもならコートを受け取ろうとする彼女は俯い
てもじもじとスリッパの先をすり合わせている。
「雪代…?」
「あ、あの!」
 あの、と言いよどむ言葉の先を辛抱強く待ってやる。じわじわと寒さが沁みこむ玄関先で立ったままだと、流
石に足が冷たくなってくる。少し足踏みをした藍沢に気付いた雪代は、意を決したように顔を上げた。
「お、お帰りなさい、秋吾さん…。ご飯にしますか?ライスがいいですか?…それともお・こ・め?」
「…は」
 よくある新婚コントの台詞のような、でも少し違うものを搾り出すように雪代は口にした、しかも最後の一言は
きちんとしなを作っている。
 全て米飯であることには変わりがない、それに一般的な食事を意味する『ご飯』を『炊いた白米』に言い換え
た妙もある。
「…上出来だ、うん」
「うぅ…、もう!もう言いませんからね!」
 よくは出来ているが面白いかと言えば微妙だ、そのまま向かい合っていると息が詰まりそうだったので強制的
に雪代を抱き上げて、暖かなリビングへと運ぶ。
「うんうん、面白い面白い」
「ばかにしてる!絶対秋吾さんばかにしてるでしょー!一生懸命考えたのに!」

「で、暴れてる拍子にがりっと」
 半ば惚気じみた話に、担当はうんざりし部長は軽く藍沢を打った。
「あんまり苛めすぎるなよ。ヒネた嫁さんに手を焼くのは辛いぞ」
「実体験ですか」
 余計なことを言わなくて良い、と茶化した部下を殴り部長はのしのしと自席へと戻っていった。
「今度落語にでも連れて行ってあげたらどうです」
「本当に君は雪代に甘いな…」
 チケットならありますよ、とデータのチェックを始めた編集は片手でパンフレットを差し出した。



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -