「雪子さん、おいで」
 呼んで、ソファから起こしてやる。深く腰掛けた紺野の膝上に誘い、そのまま両手で縋らせ強く抱きしめた。
肩口に伏せられた顔を片手で上げさせ、何度もくちづける。
 うわごとのようにせんぱい、すきですと繰り返す彼女にこれからする事を考えると、いまさらのように心が少し痛んだ。
が、男の片手は背中から腰に落ち、スカートをまくって臀部に進入する。薄い布地に覆われた尻を掴み、その弾力を楽しむ。
「―っ、は、やめ」
 核心に触れようとする手に戦き、逃げを打つ体を腰に回されたままの男の左腕が封じる。
「や…」
 後ろから下着の中に進入した男の指が、自身でも触れたことの無い秘部に触れる。さんざん熱を上げられたせいで、そこはぬかるんでいた。
優しく、しかし容赦なく男は秘唇を拓き、指を押し入れた。
「力、抜いて」
「ひ…っ、あ――」
 未経験の体は強張るばかりで、指の侵入を拒んだ。体を強張らせ強くしがみついてくる雪子を気遣い、抱きしめていたほうの
手で背中を撫でたあと顔を上げさせて、くちづける。
 本当はもっと胸や体を触って紛わせてやりたいのだが、抱きしめていないとくずおれてしまいそうな彼女を離すことは出来なかった。
 紺野は根気良く、じりじりと指を進めた。隙間を許さないほどにきつかったそこはほんの少しずつ緩み、ようやく指が根元まで到達した。
 想像していたより、痛くない。そう、雪子は思った。ただ圧迫感が凄くて言葉を紡ぐことも出来ない。いつの間にか流れていた涙を、
紺野が唇で掬ってくれるのが嬉しくて、次第に体の力も抜けていった。
「っん、な…に」
 一瞬、挿れられている指が何かを確かめるようにゆっくりと引き抜かれた時、背筋に衝撃が走った。戸惑うからだが身構える前に、
男の指は露呈した弱点を重点的に責めはじめた。
「ぁ、ん」
 とろとろと分泌液の量も増え、そこは徐々に開き始める。耳をふさぎたくなるような水音を立て、二本に増えた男の指が内側を広げていく。
潤みきった粘膜は、快楽の波を生み出して雪子をさらおうとする。
「やっ、からだが、へんになるっ」
 大きすぎる刺激に、全てがとけて流れてしまいそうだった。縋るからだと優しいくちづけが無ければ狂いそうなほどに。
「おかしくなればいい」
 残酷な囁きが聞こえ、ずるりと引き出された指が、前側に伸び、敏感な突起を摘んだ。
「ひゃあああん、んんんん!」
 甲高い悲鳴は、途中でキスに封じられた。頭がまっしろになり、制御の利かない体が痙攣する。すさまじい感覚が抜けた後はもう、
気力も体力も消耗し雪子はくったりと紺野に体重を預けた。
 力の抜けた体をソファに再度横たえる。すぐにでも抱いていしまいたい気持ちを押さえ、風紀検査で没収したものの中から一枚
スキンを拝借するため、立ち上がる。男子生徒が箱ごと持ってきていた為没収となったもので、一時笑い話の種になった事を思い出す。
 範を示すべき立場でいつも周囲を気にしてきた己が学校で後輩を抱くだなんて、今朝の自分が知ったら目をむいて
倒れるんじゃないかと紺野は自嘲する。
 しかし残念ながらもう後には引けない、いや引かない。ソファまで戻り、ぼんやりと見つめてくる雪子の髪に指を差し入れ
額に張りついた髪を梳いてやる。
 気持ちよさそうにされるがままになっている少女の足をそっと開かせてから、ソファに片膝を付き、ベルトを緩めて我慢の
限界を訴える紺野自身を取り出す。
「声、出したほうが楽なんだろうけど、ごめんね」
 何を言われているか分からない、と言った風に雪子はふるりと頭を振る。濡れて待ちわびる秘唇に肉茎の先端を擦り付け、
華奢な腰を掴んでゆっくりと体内に侵入する。
「―――っ!」
 指とは全く違うふとさと感触に、雪子は悲鳴を上げる。紺野の片手が口を塞いでくれていなかったら、たぶん物凄く響いていたはずだ。
硬いソファの生地にがりっと爪を立てる。確かに痛いし異物感が凄いのに、先だって溶かされた粘膜は、少しずつ男を迎えていく。
 ず、ずっと少しずつ深くなり、下腹深くまで侵略される。
 口から手が外され、雪子は大きく息を吸い込む。なによりも、熱い。体が内側から焼かれるようだ。中に入っているものを直接目に
していないから、紺野としている、と言う事実が脳に入ってこない。ただ、熱い。
「雪子さん、大丈夫」
 呼ばれて顔を上げると、ぎこちなく笑う男の顔が目前にあった。彼の息も上がっていて、雪子は今更ながらこの大好きな先輩としているんだ、
という事実を思い知って恥ずかしさと奇妙な嬉しさに、ぶるりと身を震わせた。
「だいじょうぶじゃ、ないです」
 そう言って、戸惑いを見せた男に初めて自分からキスをする。
「熱くて、どうにかなりそうです」
 少女の正直な言葉に、男は恐ろしいほど煽られる。もう邪魔にしかならないであろう眼鏡を外して置き、深く口付けた。
 蠕動を知らない雪子の内壁は、ただきつく男を締め付ける、それだけで達してしまいそうだ。ソファに爪を立てていた手を
柔らかく握りそのまま縫いとめ、そのままゆるく律動を始める。スキンについていたゼリーが少女の蜜と混ざり、次第に圧迫は薄れていく。
「あ、ああんっ、ん、やぁ」
 指で見つけた弱点を狙い突き上げると、詰めた息ではなく色の付いた声が漏れ始める。
 紺野もきつい締め付けに、思考がままならなくなってくる。頭に血が回らず、ただ目の前の快楽を追い求めた。
 繋いでいた手も離し、ぎゅっと抱きしめより密着する。少女の腕もそっと男の背に回り、縋る。奥まで捻じ込んで捏ねるように動かすと、
全体を絞るように粘膜が蠢く。それに耐え切れず、スキンの中に欲望を吐き出す。
「っつ、ふ」
 短く息を詰めて、強く抱きしめてくる男の腕に雪子はこの上も無い幸せを感じた。よくは分からないけれど、
自分だけじゃなく紺野もちゃんと気持ちよかったらしい。
 一方紺野は一度では収まらない己に呆れていた。達したばかりなのに欲望は芯を持ち始めていた。ここが紺野が望んだとおりに
休日前の夜で、朝まで眠れる寝床であるなら迷うことも無いのだが、ここは学校である上に、彼女は初めてだ。
 一度抜いて落ち着こうと、少し体を起こし腰を引く。
「ぁ、んっ」
 その動きだけで雪子が甘く鳴く。思わずそこで腰を止めてしまう。背中に回った彼女の手がシャツをくしゃりと掴んだ。涙のたまった目は熱に浮かされている。
 それでも何とか自制して、ずるりと性器を抜き出す。スキンを外して、口を縛り床にほうる。ふと雪子の方に目をやると、何故か真っ赤になっていた。
 目線をたどると、どうやら半勃ちの今野のモノを見てしまったようだった。
「え、と」
 視線をうろうろさせる雪子の半身を起こさせ、ソファの隅に追い詰める。中途半端に追い上げたままだから、
と深く口付け体中にキスをする。誰にも見えない胸の下にキスマークをつけた。そのまま、開かれた秘部に指を挿れる。
 小さな声を上げて善がる雪子は、それでも何かを訴えるように紺野を見上げてきた。
 痛い?と尋ねると、ふるふると首を振る。彼女は何度か逡巡したあと小さな声で告げた。
「私も、します」
 向かい合うように座っている紺野の中心に、小さな手が触れる。一瞬その感触に驚いたのか逃げかけたものの、きゅっと握られる。
「は、僕のことは、気にしなくて、いい」
 しかし不慣れな手は容赦のない強さで、陰茎を擦る。痛みと紙一重の感覚だが、雪子に触れられていると思うだけで頭がしびれるようだった。
 吐息が小さな喘ぎに変わり彼女の限界が近いことを感じる頃には、紺野も十分に煽られていた。高い声を封じる為に、深く口付ける。
 ひくんと大きく震えた体が崩れ落ちると、放置してあったタオルを手に取り、己の欲望をそれに撒いた。

 お互い荒い息をつきながらそれでも笑いあう。額をくっつけて短いキスを繰り返す。ずっとこうしていたいと二人共に思っていた。
 不意に携帯電話の着信音が流れ、甘い雰囲気を切り裂く。鳴ったのは雪子の携帯で、母親からの帰宅時間を問うメールを着信していた。
 一気に現実に引き戻された二人は、元来の真面目さを取り戻しあまりの現状のひどさに青くなった。
 腕や足に絡まったままの雪子の制服は皺だらけで、紺野のシャツもくしゃくしゃになっていた。ソファにも点々とシミが落ち、
何よりもとうの昔に下校時刻を過ぎていた。
 電気を付けずに扉の鍵を閉めていたため、気付かれなかったのだろう。
 雪子はおぼつかない指で服装を直し、立ち上がろうとした。が、全く腰に力が入らずそのまますとんとソファに落ちた。
散らかしたタオルや備品を片付け、カーテンを開けていた紺野は、呆然としている雪子を見て、しまったと後悔した。
 誰がどう見ても事後だと分かるような雰囲気の彼女が、果たして自宅に帰ることが出来るだろうか。腰が立たないのはもちろん、
親の反応が恐ろしいはずだ。親への返信メールを打とうとして止まった手が、それを物語っていた。
 いくら誘ったのは彼女のほうだからといっても、きちんと後のことを考えなかったことに凄まじい罪悪感が襲う。
 ふと、彼女の表情が変わり、電話をかけ始める。
「うん、急にごめん。迷惑だよね…、ほんと、ありがとう」
 断片の会話では内容はよくわからないが、彼女の表情が目に見えて明るくなる。今度はメールを打ち始め、それを送信すると紺野に笑いかけた。
「友達の家に泊まることになりました」
 彼女を自宅に呼ぶことまで考えていた紺野は、あっけない解決に力が抜ける。
 誰もいない校舎を来た時と同じように、紺野に抱かれて抜け出す。通り雨はすっかり止んでいて、雨上がりの匂いが漂っていた。
 自転車の荷台には辛うじて座れたので、以前何度か送ってもらったときより、ぎゅっとしがみ付く。紺野はゆっくりとペダルを踏み、
星が瞬く青紺色の空は穏やかに流れていく。
 幸せすぎて、泣きそうになった。

 かすれた雪子の声に心配を募らせたカレンは自宅のマンションの前で二人を待っていた。
モデル稼業や社交界の大人たちに囲まれて育ったカレンは、すぐに二人に起きた事を察してにやにやと笑みを浮かべる。
「そーういうことだったの。紺野先輩、意外とやりますね」
 真っ赤になる雪子を荷台からおろしてやり、男をからかう。雪子を取り巻く男共の中で一番こういった事態を起こさないだろうと
踏んでいた紺野が、罰の悪そうな顔をしている。
「じゃあ」
 そういってあっさり男は去っていった。
「なんだ、お別れのキスでもするかと思ったのにぃ」
 エレベーターを待つ間にそう言うと、雪子が咳き込む。あの抜け目の無い男は、カレンが見えないところで甘いお別れを演じたのだ。
非常に分かりやすい反応を返す、純な友人をからかう気にもなれず、さあさあお泊り会だー、と明るく手を引く。
 この夜、哀れな小鹿は男との関係を洗いざらいカレンに知られてしまうことになる。



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