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ED後

 はばたき高校を卒業した日、二人はサクラソウに導かれお互いの胸のうちを語り合った。
 精一杯の告白とキスの後、無理して立っていた琉夏は椅子に倒れこみ短い再入院をする羽目になる。
「かっこ悪いヒーローだね、ごめん」
 毎日見舞いに来る恋人に、琉夏は謝った。
「もう、仕方ないんだから」
 泣き笑いのような表情で、いつものようにふくれてみせる彼女を抱き締められないことが、心底つらかった。
三月・四月と養生をし、もう大丈夫だと医者のお墨付きを貰ってから、琉夏は家を探し始めた。桜井組の傘下でない不動産屋を回り、ひとつひとつ。
 はばたき市の外れにある、小屋じみた小さな一軒家。それが琉夏の新しい棲家だ。格安のその物件を見つけたとき、すぐに借りようと思った
。不動産屋や大家は倉庫として貸し出すつもりだったらしく、とても驚いていたが何とか借りることが出来た。

 そして、夏。
「兄ちゃんよう、なんで市内のアパートとか借りないんだい」
 家周りの草刈りをする琉夏に、人のよさそうな近所のおばさんは心配そうに尋ねてくれる。
「俺、ずっと、家が欲しかったんですよ」
 顔に見合わずセンチだねえ、と言ったおばさんはおおらかに笑う。
 僅かに咲いた雑草の花を避けて黙々と手を動かす。
 花は好きだ。心の支えになる思い出がピンクの花弁に溢れていたせいもあるが、静かで優しいそれらが琉夏を落ち着かせた。
「琉夏君」
 不意に柔らかな声が響き、白いワンピースのすそが琉夏の横で揺れていた。
「お、こんにちは沙雪ちゃん」
 沙雪が足しげくこの家に通うせいで、すっかりこの近辺の住民と顔見知りだ。今もこんにちはと挨拶を返し、世間話をしている。
琉夏くんのお嫁さん。そういう認識らしい。
「沙雪、おいで」
 あらかたの草を刈り終わって、家に引き上げようとする。じゃあ、また、とおばさんに手を振り、彼女は駆け寄ってきた。
 立て付けの悪いドアはキイキイと悲鳴をあげ二人を迎え入れる。入り口右に古いガス釜のステンレス風呂と和式の便所、
正面奥に六畳の台所付き部屋と、同じく六畳の部屋が連なっていた。たった二間の狭い家。
「琉夏君お腹すいたでしょ」
「うん、もうしにそう」
 そんなところはちっとも変わらないんだからとくすくす笑いながら、沙雪は台所でなにやら料理を始める。
ノースリーブのワンピースにエプロンでこまこまと動く彼女を、琉夏は奥の部屋に寝転がって眺める。
『家が欲しかったんだ』
 義理の母父も琥一も、凄く優しかった。でも、琉夏は桜井の家を自分の家だとは思えなかった。帰りたい。いつもそう思っていた。
無償の愛を与えられるほど、それを受け入れられない自分に苛立った。死んでしまいたい、死んだら悲しませてしまう、死にたい。
そればかり。事故で死ねたら良いと、無茶なことばかりした。

「お素麺出来たよー」
 呼ぶ声に立ち上がり、台所においてあるテーブルに向かう。なんと言うことのない、透明な器に入った氷と素麺、不ぞろいなつけ汁入れ。
それが無性に琉夏を幸せにした。
「さ、食べよ」
 そうにこにこ笑ってエプロンを外す彼女をぎゅっと抱き締める。急な抱擁に少女は一瞬びくりと震えたものの、青年の背中に腕を回した。
「おれ今すっげーしあわせ」
 心底からの言葉に、少女も頷く。そのままどちらからともなく何度もキスをした。
 段々深くなるキスと、不穏に動き始める青年の掌に翻弄されそうになった沙雪は、思い切り腕をつっぱった。
「なんで…」
 腰をしっかりつかまれたままなので逃げられたわけではなかったが、それでも息はつける。
「なんでじゃないの、ね、お素麺食べよ」
 続きは食べてから!と強く言うとちょうど良い具合に琉夏の腹の虫が鳴いた。
 ぶうぶう言いながらも琉夏は素麺をたぐり始める。何回か深呼吸をして、沙雪もいただきますと言う。
 ここに琉夏が越してきて、沙雪が泊まりに来た最初の夜に初めて二人は抱き合った。
「ずっと我慢してたのに、告白したとたん再入院でその後自宅に養生軟禁とか何かの拷問かと思った」
 そう言った琉夏は、一晩中沙雪を離さなかった。その後も、ここに来たらほぼ毎回肌を重ねている。琉夏はいつでも突然で、
台所に風呂場に玄関と、どこでも引っ付いてきた。
 まるで盛りの付いたなんとかだ。
「ごちそうさま!」
 ぱん、と手を合わせる音が響き、琉夏ががたんと立ち上がった。
「ちょっと、よく噛んでたべな…んっ」
 ほんの少しかつおだしの味がする舌が、沙雪の歯列を割った。そのまま存分に口腔をねぶり、力の抜けた少女の体を掬うように
抱き上げた琉夏は、奥の部屋に敷いた茣蓙の上に座った。
 すっぽりと琉夏の腕の中に納まった沙雪は、上がった息を何とか抑えようと躍起になっている。それを完全に無視し、
もう一度唇を奪ってやる。ちゅ、ぴちゃといやらしい水音が溢れ、ほんの少し抵抗していた細い腕から完全に力が抜けた。
 キスはやめないまま、彼女お気に入りの、白地に細かい刺繍の入ったワンピースをまくり手を進入させる。
少し汗ばんだ肌が手に吸い付くようで、太股から腰骨、柔らかい腹にほんの少し凹凸した肋骨の上と感触を楽しむ。
 そのまま下着につつまれたままのやわらかな胸を、そっと掌に包んだ。
「…っ、ぁ、ひゃん」
 春から夏の間にさんざん馴らされた体はきっちりと快感を拾う。青年の掌のなかで程よい大きさの胸が形を変えている。
 小刻みに体を震わせ、荒い息を吐く彼女はとてもかわいい。
「きもちいい?」
 わざとそう聞くと、いやいやをするように首を振る。
「嘘」
 沙雪の耳元でそう囁いてやり、そのまま首筋に唇をつける。甘噛みしてやると、かわいそうなくらい彼女の体が跳ねた。
「も、もうっ、琉夏君のバカ」
 そう言うと、仕返しのように肩口をかぷりと噛まれた。たったそれだけのことなのに、驚くほど煽られる。
「沙雪さ、吸血鬼なんじゃないの」
 きっと彼女の牙には魔力がある。
「なんで…っ」
 下着をずらし、胸に直接触れる。ワンピースを着たままなので見えはしないが、先端はすでに硬くなっているようだ。
触れるたびに高い声をあげ、身をよじる。琉夏の足の上に向かい合って座っているので、動いた弾みに熱を持った
ものが布越しに沙雪の足に触れた。なんとなくそれに手を伸ばし、その熱さに驚く。初めて触れるものではないけれども、
琉夏が自分に欲情していると言う事実に酔う。
「ん?なに、はやく欲しいの?」
「ちが、やぁ」
 琉夏の手は徐々に下がり、薄い布地に覆われた沙雪の尻をやわやわと揉んでいた。そしてするりと秘部に指を這わせた。
そこは熱くぬかるみ、ひくひくとうごめいていた。
「ひあ…あああ、んっ」
「沙雪も待ちきれないみたいみたいだね」
 容赦のない指が、奥まで突き立てられる。沙雪の中を知り尽くしたそれは、気持ちの良いところをえぐってくる。
背筋を抜ける甘い痺れに、沙雪の思考も体もとろとろに溶かされる。
「中、ぐずぐずになってるよ」
「ふっ、うぅ…ん」
 耳元に吹き込まれる揶揄に力なく首を振る。いつの間にか何本かに増えた指が容赦なく彼女の体を煽る。
額に不意打ちのようにキスをされ、はっと沙雪は顔を上げた。すると、いつは余裕たっぷりの琉夏が、欲情を隠さずにじっと見つめていた。
欲望がはっきりと写るその瞳に、心臓が爆発しそうになる。
「おれもはやく欲しい」

 そのまま仰向けに押し倒され、ワンピースを脱がされる。琉夏も衣服を脱ぎ、窓から入る真夏のまぶしい光が汗だくの二人を白く浮き上がらせた。
 沙雪のほころんだ器官に、熱が押し当てられ、何度かぬるぬると滑った後それは内部に侵入してきた。
「あ、ぁぁああ、はぁ」
 体の深いところまで埋められた他人の熱。やけ付く様だ。
「――あっつ―」
 琉夏も熱に浮かされたような吐息を漏らす。お互い同じことを思っているのが嬉しくて、沙雪はぎゅっと青年の背中に腕を回した。
「あ…ん、はっ…あ」
 繋がった腰をゆるくゆすられる。それだけで脳が解け落ちるくらいに気持ちが良い。お互い余裕無く、獣のように求めあった。
繋がった部分はぐちゃぐちゃで、抱き合った体も熱さで溶けそうだ。
「や、やだぁ、やああぁぁ」
 先に限界を迎えたのは沙雪のほうだった。きゅうっと締め上げてくる内壁に琉夏も煽られそのまま達してしまい、深く息を吐く。
 ナカに伝う感触は無くて、いつの間にか琉夏がゴムをつけていたことに気付く。
「ゴム、いつのまにつけたの?」
「ひみつ」
 ヒーローの必殺技だよ、とこんなときまで言う琉夏に思わず笑んでしまう。
「必殺技なの」
 くすくす笑う振動が沙雪の体から伝わる。まだナカに入ったままの自身は、僅かな震動にすら反応し、ゆるく芯を持ち始めていた。
「ね、沙雪、もう一回お願い」
「え、ぇ」
 有無を言わさず、達したばかりの敏感な体を持ち上げ、向かい合い座る姿勢に戻る。
「ちょっと、まって、や、ふかいっ」
 まだだめと、じたばた足掻く彼女を抱き締めて封じる。青年の腰をまたぐ姿勢になったせいで、より深いところまで入り込んだ熱に、
沙雪の腰は形をなくしていく。未知の場所までひろげられているというのに、内壁は悦びにのたうつ。
「ぁん、はぁ…んっ」
「沙雪、あいしてる」
「ひっ、や、あああん」
 不意打ちに、心からの笑顔でそんなことを言われる。わたしも、と小さく呟いて沙雪は琉夏を強く抱き締めた。




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