青い春
さかってる柔道部夫婦


 夜、毛布に包まってベッドの中で嵐と深雪は電話をしていた。取り留めのない会話と明日の部活のこと、そし
て今度の日曜に出かけること、それと単純にお互いの声が聞こえることに夢中になってついつい長電話になって
しまった。
「あ、もうこんな時間」
 携帯は耳に当てているから、ベッドサイドにおいている蓄光の目覚まし時計でしか時間が分からない。
『やべぇな、全然気付かなかった』
 あまりおしゃべりなイメージのない嵐が、無意識に長く電話をしてくれたことも嬉しくて、電話を切りたくな
くなる。
「うー…」
『何唸ってんだ』
 もう深夜とも言える時間で、朝練に出るためにはさっさと寝なければならない。しかし、どちらもなかなか電
話を切ることができない。結局眠気に負けるまで、耳に押し当て通話をしていた。
「…ん、また、明日…」
『もう、今日だ…』
 半分眠ったような声で、お休みと電話を切った。


 今度の日曜日、嵐のバイト先での先輩だという人とその彼女さんとダブルデートに行くのだ。一体大に通う先
輩さんは、ハロウィンナイトに行くのが気恥ずかしいそうで、でも彼女が行きたいからと悩んだ挙句嵐に話を振
ったらしい。
 そういえば遊園地には柔道部メンバーでぞろぞろ行っただけで、二人きりでは行ったことがないな、と思い当
たる。表立ってははしゃいだりしないが、深雪は日曜が楽しみで仕方がない。朝からいっぱい遊んで、夜はハロ
ウィンで、大学生の先輩たちはどうするのかな、その後は…。

 がば、と跳ね起きると間違いなく自分は自室のベッドにいて、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。
 なんて夢を見たんだろうと一人で赤面した後、ぞくりと震える下半身を持て余す。胸の先端もパジャマと擦れ
て痛痒いような感触がする。具体的過ぎる願望というか、嵐に触れられる夢を見て目覚めるなんてと自分をたしなめるものの、興奮しきったからだが収まらない。
 そろそろと指を伸ばして、下着の上から股に触れてみる。
「んっ…」
 じわ、と広がる快感に外側のひだがひくりとうごめくのが判る。嵐が色々としてくれることを思い出すが、自
分で触れるのは初めてなので勇気が出ない。とりあえず布越しでもぷくんと指に引っかかる突起を指で捏ね、び
りびりと走る快感に酔う。
「は、ぁ」
 こぼれる溜息を殺さなくてはとベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
「ん、ん」
 いつの間にか夢中になり、ベッドに胸を擦りつけながら腰を突き出すような姿勢になっていることに気付き赤
面する。
「あらしく…!」
 名前を呼ぶだけで、ぞくっと背筋が震える。あの無骨な手に触れられた記憶を手繰り寄せ快感を追いかける。
「はぁ…」
 イくことなんてできないが、ある程度のじんわりとした快感に浸る。
 と、目覚ましがぴりぴりと音を立て始め一気に現実に引き戻される。朝っぱらから何をやっているんだろうと
罪悪感と嫌悪が深雪を襲い、ぶるぶると頭を振った。


 お休みと眠そうな声で呟いて、彼女は電話を切った。
「は」
 とろりと溶ける様な声は、全くそういう意図はないのだろうが驚くほど色っぽく、嵐の下半身を直撃した。こ
のままではとても眠れそうにはない。硬く持ち上がってしまっている性器に手を伸ばし、目を瞑って擦りげる。
 思い出すのは深雪の事だ。弾力のある肌は汗ばんで、触れるたびにこぼれるように甘い声が漏れる。弱いとこ
ろに触れると悲鳴を上げて、それでも逃げずにぎゅっと抱きついてくる。
『あらしくん、あらしく…ん』
 一回だけ、我慢できないとばかりに腰を押し付けられたことがあった。充血しきった襞にぐうっと飲み込まれ
る感覚と奥まで収めきったときのえもいわれぬ幸福に、二人でふうふう言いながら笑った。
 どくり、とティッシュに精液が溢れる。もともとあまり一人で処理をしない嵐は、重い虚脱感に襲われた。二
人ともそんなに性欲を持て余すようなタイプではないのに、抱き合うごとに暴走しているような気がする。
 快感を得るためだけではない、ありあまるしあわせとあたたかさがそこに在るからかもしれない。


「なんか、今日先輩たちヘンじゃね?」
「そうかァ?」
 ストレッチの後、ランニング。そして組み手と流れるように進む爽やかな秋晴れの朝練。
 それなのに、深雪はぎくしゃくして嵐に近づこうとしないし、嵐も嵐でそんな深雪を咎めようともしない、と
いうより微妙に避けている。
「ケンカでもしたんじゃないスか」
「ええー、想像できねー」
 やいのやいのと話しながら稽古をする一二年をたしなめる様に渇が入る。
「ほらほらお前ら集中集中…―大体あれがケンカな訳ねーだろ」
 どうせ胸焼けしそうな程甘い理由の行き違いなのだ、鈍感で初心なくせに夫婦なあの二人の横にいれば嫌でも
分かるし、口の中に甘い菓子をねじ込まれるような感覚には毎回いらいらさせられる。
「アレが正しく真にラブラブ、って状態なんだろーなぁ」
 現にがしゃーんとアルマイトのやかんを落とした深雪のもとへ、素早く近寄っている嵐を見ておごちそうさま、
と口の中で呟いた。


 朝練後着替えて教室へ戻る途中、裏庭の人気がない場所で深雪は隣を歩く嵐を引き止めた。
「さ、さっきは、ごめんなさい」
「いや、気にすんな」
 今朝、嵐におはようといわれた時の罪悪感は今までに味わったことのないものだった。いやらしい妄想をして
しまった相手から真っ直ぐ見られ、申し訳ないやらぞくぞくするやらで、その過剰な反応が全て自己嫌悪に繋が
る。
 なのに、黙々と走る姿や厳しく後輩を指導する様子を見るとぼうっとしてしまい、挙句には思い切りやかんや
らなんやらを落として集中を切ってしまった。
「―お前、大丈夫か」
「え、や…!」
 伸ばされた手に、過剰に反応して変な声が出てしまった。変だ、本当におかしい。
「ぁ、う」

 真っ赤になって静止してしまった深雪は、潤んだ瞳で嵐を見上げている。昨夜思い描いたその表情に、部活で
散々運動した筈なのに体に熱が戻る。大体、今朝部室の鍵を開けていた深雪を見かけたときから、なんともいえ
ない罪悪感とほんの少しの欲が渦巻いていたのだ。無理に発散させたとはいえ、燻っていたそれは容易く煽られ
る。
 無意識なのかも知れないが、誘うようにこちらを見つめ続ける深雪をそのままにはしておけない。ざっと周囲
に目を走らせ気配を探るが、教会へ続くレンガ塀と園芸部の畑しかないこのあたりには、朝のホームルーム直前
の今、誰もいない。
「ん…」
 鞄を地面に放り、蔦の蔓延るレンガに深雪を押し付け口付ける。直ぐにしがみ付いてくる腕のせいで体が更に
密着して、柔らかな胸や太股が遠慮なく押し付けられてくる。
 最初から深く舌を絡めあい、何度も息を継いで貪りあう。とても朝からするようなキスではないし、もし見つ
かったなら懲罰を受けかねない、それなのに二人は止まらなかった。
「あ、ぁは…」
「ふ…」
 さすがに息が上がり、ぜいぜいと肩を上下させずるずると茂みに座り込む。
「ひぁ…」
 首筋に噛み付いた嵐を止めることなく深雪が高い声を上げたとき、鐘が鳴った。
「へ?」
「―遅刻、だな」
 キスに夢中で予鈴や放送に気付かなかったらしい、腕時計に目をやると一時限が始まってしまっていた。
「やっ、やだ、なに、もう!」
「ちょっと落ち着け、おい」
 朝っぱらからしかも外で、更に学校で何をしていたのかはっきり自覚してしまい、動揺してしまう。嵐もべち
べちと叩いてくる深雪を立たせ、何とか平静を保とうとしているものの、口元に手を当てて目を逸らしている。
 もしこれがサボリ癖のある人ならばこのままここで…と考えてしまい、更にそれを少し望んでいることに混乱
する。
 深雪の鞄も一緒に持ち、行くぞとぼそりとつぶやいた嵐の背中を何とか追いかけるが、力の入らない足で慌て
たせいで自分の足に躓いてしまう。
「きゃ」
「おい!」
 もう一度鞄を放り出して、彼は深雪を抱きとめてくれる。
「落ち着け、な」
「ごめんなさ…」
 眉間の奥が熱くなって、じわっと涙が溢れてくる。泣いたら目が腫れますます教室に行きづらくなるというの
に、ぐちゃぐちゃの思考が制御できない。
「昼休み」
「え?」
「続き」
 耳元に囁かれた断片的な言葉を、ゆっくり咀嚼する。こういうことに対して厳格というか古風な嵐が、まさか
そんな風に誘うとは信じられず、え、え?と繰り返してしまう。
「じゃ、先教室行ってるな」
 自分の鞄だけ拾って校舎へ走るのは、彼なりの照れ隠しなのだろうか。
「ど、どうしよう…」
 茂みにへたり込んだまま、暫く深雪は立てないでいた。


 何はなくとも腹は減る、はずだった。毎日二個の弁当と学食の定食を平らげる嵐だが、今日は全く空腹を覚え
なかった。四時限目、現国の授業が始まっても弁当の包みを開く気になれない。
 原因は朝の出来事と昼の約束であることは明らかだ。
 二時限の始めによろよろと教室に入ってきた深雪はぐったりと机に臥せっている。真面目な彼女は、かろうじ
て授業中は顔を上げているものの全く集中していないのは明らかだった。
 それは嵐も同じだ。普段は真面目というわけではないがそれなりに授業は聞いているのに、疚しい妄想に意識
を占領されて上の空である。
「こらぁ!村田ァ、今読んだところの続きを読んでみろぉ!」
「ひゃ!」
 彼女が大迫に怒鳴られるなんて普段ならまずありえないことだ。前の席のヤツがさりげなく教科書をずらし、
ペンで示しているのにも気付かない。
「ん?…具合でも悪いのか、顔が真っ赤だぞ」
「何でもないです!すみません」
 怒られ馴れない彼女は俯いてしまう。
「気をつけろよぉ!じゃあ次の三芳、続きを読んでみろ」
 はい、と出席番号順に当てられた女子がゆっくりと朗読を始める。
 と、深雪がこちらを向きばちりと目が合った。大迫が指摘したとおり、赤く上気した頬とぼうっとした様子は
風邪にも見えるが、そうでは無い事を嵐は知っている。
「―っ」
 色に染まったその表情に、下半身を刺激される。こういうとき、目に見えて興奮がわかる男は不便だと心から
実感する。何気なく足を組み、治まれと心の中で無心に唱えた。

 叱責されて恥ずかしいというより、厭らしい妄想でいっぱいだった自分が恥ずかしくて死にそうだと深雪は俯
く。今も、何気なく嵐の方を見てしまい、さらに目が合って少し笑われただけなのにぞくぞくと背筋に痺れが走
った。もぞ、と尻を動かして股を椅子の座面に強くこすり付ける。湿ったそこが刺激されて思わず溜息が漏れる。
「…はぁ…」
 滲む視界に映る時計の針は、ちっとも進んでくれなくて、ただただ熱だけが体を蝕んでいく。
 小さくノートに、はやく、と書いてぎゅっと目を瞑った。


 待ち望んだ鐘がなる頃にはすっかり疲れてしまって、深雪はへにゃっと机に突っ伏してしまった。それでも、
嵐の様子を伺おうと顔を横に向けると教室を出て行く広い背中が見えた。
「深雪ちゃん大丈夫?」
「大丈夫か?」
 心配そうに声をかけてくれるクラスの友達に、大丈夫だけどちょっと休憩してくるね、と何とか取り繕った笑
顔で答える。腰が立つかどうか不安だったが、少しふらついたくらいで何とか立つ事が出来た。
 そういえばどこで待ち合わせ、とは言わなかったなと思いながらふらふらと裏庭に向かって歩く。朝、キスを
した場所に差し掛かると、羞恥と快感が沸き起こり思わず立ち尽くしてしまう。
「深雪」
「ひゃあ!」
 急に腕を掴まれ、変な声を出してしまう。
「何だその声、くくっ」
「わ、笑わないで!嵐君のばか!
「何だ、そんなに怒るな」
 行くぞ、と言われそのまま手を繋ぎ引かれる。じわ、と伝わる体温ばかりが気になってどきどきと心臓の音が
煩くて仕方がない。
「今日だけ、な」
 本来は朝練の後返却しなければならない鍵を嵐が取り出し、柔道場の引き戸を開ける。畳が灼けるからとカー
テンを閉めているので、昼でも薄暗く、熱気が篭っていた。
 がちゃんと施錠し、かかとを踏んで上靴を脱ぎ捨てる。
「えっ…と」
 ぺたん、と畳に座り込んだ深雪は、真っ直ぐ備品置き場に向かう嵐を怪訝そうに見つめている。
「タオル用意すっから待ってろ」
「え?あ、うん」
 直ぐにでもキスして触れられると思っていたから、意外と冷静な嵐の反応に恥ずかしくなる。自分ばかり発情
期のようで、涙が出てきてしまう。
「っ…」
 白い大きなタオルを何枚も持ってきた嵐は、ひくひくとしゃくり上げる深雪を見て、驚いたように顔を覗き込
んで来てくれる。
「どうした」
 盛り過ぎて恥ずかしい何て言えないが、掴まれた二の腕が熱くて抱き締めて欲しいと強く思った。
「あらしくん…」
 縋ってくる深雪を拒まず、タオルを置いて腰を下ろし強く抱き締めた。
「お前、今日はどうしたんだ」
「…ぅ」
 腕の中で泣き続ける彼女を覗き込むと、涙にぬれた黒目がちな瞳が見上げてくる。数回瞬いた後、すっと瞼が
閉じられる。
 誘われるまま、ちゅ、と口付け、額や頬にも唇で触れていく。
「ん、…っふ、はぁ…」
「びくびくしてんな」
 耳や首筋に軽く噛み付いただけで、甘い声が上がり始める。ぎゅっと抱きついてくる腕は強く、柔らかい感触
を否応無しに感じてしまう。教室では何とか治めたものの、直ぐに煽られた熱は嵐の下半身に溜まり、陰茎を硬
く充血させる。
「あ…」
「あんま触るなよ」
 ごりっとした感触に嵐の興奮を知ったのだろう、深雪が確かめるようにそこへ手を触れた。
「嵐君も、したいの?」
 当たり前すぎる質問と、ズボンの上からといえ容赦なく触れてくる手に煽られる。
「したい」
 正直な答えを聞き、初めて深雪は気を抜いたように笑って、意を決したように口を開いた。
「あのね、昨日ね、寝る前までずっと電話してくれてたから、嵐君の夢を見たの」
 彼女の頬を手で包んで、有無を言わせぬように次の言葉を待つ。
「で、その、えっと…、夢がえっちな内容で…、起きたら身体がぞくぞくして、し、したいなぁって、嵐君とし
たいなって!今朝から、そればっかり…」
 しどろもどろに、しかし隠すことなく伝えられた事実に嵐の胸が締め付けられる。誘惑ともいえない程の、真
っ直ぐて稚拙な誘いに一気に体の熱が上がる。
「ばかか、お前」
 噛み付くように唇を奪い、執拗に舐めしゃぶる。つうと口蓋を撫で、舌を吸って絡め唾液を交換し、不意打ち
のように甘く噛むと深雪はびくびく震えて甘いくぐもった悲鳴を上げる。口の端から唾液がこぼれるのも構わず、
ただ快感を追いかける。
「あ…はぁー」
 長い長いキスに完全に脱力して甘えるように懐く深雪を抱いたまま、適当にタオルの山を崩す。きちんと洗濯
され柔軟剤の匂いのする真っ白なそれは、ふわふわと畳に広がり、ちいさなベッドのようになる。
「上着は、脱ぐか」
 流石にブレザーを着たままでは色々致しにくいと思い、嵐はそう持ちかける。力なく頷いた深雪はしかし気力
が無いらしく、結局嵐が脱がせることになった。
 そっとタオルの海に押し倒された深雪は、くったりと脱力して荒い呼吸を繰り返している。今まで経験した片
手に足りるほどのセックスは、ちゃんと部屋のベッドで電気を消してシたから、はっきりと彼女の乱れた肢体を
見るのは初めてだ。着痩せするのだろうか、どこもかしこもやわらかそうな肉が程よく乗っていて、特に胸と太
股は肉感的だ。
 荒い呼吸に上下する胸はこんもりと盛り上がり、いけないと思いつつも青年は目を離せないでいた。思わず手
を伸ばし、触れようとしたときに待って、と制止される。
 間もなく細い少女の指でシャツの前ボタンは外され、大ぶりの胸がずり上がげられたブラジャーの下から現れ
る。
「ど、どうぞ…」
 ごくり、と嵐の喉が鳴る。ぷるんと上向く白いかたまりにそっと手を触れると、何ともいえない感触が掌を楽
しませた。
「―っあ」
 そのままやわやわともみしだき、感触に酔いしれる。ふうふうと荒い息を上げる彼女の様子を見ながら、わざ
と薄い桃色の乳首に引っ掛けるように胸を握りこむ。
「あ、ぅ」
 途端きゅう、っと背中が反り気持ちよさそうに呻く。きゅっとそこをつまみ、弄ってやるとがくがくと震え悲
鳴を上げた。
「や、ん!あ、あんっ、んぅ」
「ヨさそうだな」
「んっ、つよいっ」
 制する声を無視し少し引っ張りながら捏ねてやると、甲高い声をひっきりなしに漏らしながら腰を揺らす。
ぴんと立った乳首をちゅっと吸うと、ぎゅうと両腕で抱き締められた。ふかふかの胸に顔を埋める形になり役得
とばかりに舌で感触を楽しんで強く吸い付く。
「ぃ!ひぁん!」
 嵐が跨ぐようにしている少女の腰が、がくんと震えた。
「や、ぁ、吸わない、でぇ」
「気持ちいい、んだろ?」
 ちゅ、と口を離すと真っ赤に充血した先端が厭らしく膨らんでいるのが見える。片方だけでは悪い気がして、
もう片方の先端にも吸い付く。
「あ、ひゃ、あんっ、あ―あっ…」
 舌で触れていないほうも、手で触れで捏ね回すと、びくびくと深雪の体が震え腰を押し付けてくるのが分かっ
た。
「!っ!ん、やめ、も、はなし!あ…ん!」
 短い悲鳴と共に、ぐったりと脱力する。ちゅう、っと口を乳首から離すと、目を閉じて荒い息をついている深
雪の様子が良く見えた。
「胸だけで、イったんか」
 半ば閉じられた瞳が、怯えるように嵐を見上げる。
「だ…ってぇ、あらしくんが…」
 恥ずかしいのだろうか、深雪は真っ赤になって身をよじった。すっかり色づいた身体が、カーテン越しの鈍い
日光で浮き上がる。きつく吸った部分がうすく跡になっているのを見て、嵐の脳裏に一つ思い浮かぶことが合っ
た。
「なあ、キスマーク、つけてみていいか」
「へ?…きすまーく?」
 ワイシャツに残る口紅の跡を想像しているのだろうか、疑問系で返した深雪の胸の膨らみの根元に強く口付け
る。
「っ!ちょっと、いた…」
「…成程」
 クラスメートの何某かが首筋にあざをつけているのを見たときは理解に苦しんだものの、実際に自分がつけて
みると中々好いものだ、と嵐は納得した。
「あ…、も、嵐君!」
 ちゅ、ちゅ、と開襟シャツから見えない位置に跡をつけていく。胸元から先端を避けて乳房、ボタンの袷を解
きながら腹にも幾つか跡をつける。
「ひ…やぁん!」
 臍に口づけたとき、くすぐったそうな悲鳴が上がる。れる、と舌を出し抉るようにそこを舐めると、止めてと
言う言葉と共に色づいた吐息が漏れた。
「ちょ、そこ、やぁ!おへそ、や!」
 弱点、という奴なのだろうか。柔道でも必ず一つは持つ弱点、甘いところ。そこから突き崩していくのは常套
手段だ。
「へぇ、ここか」
「いっ、やん!ちょ…っと!」
 一般的に言う性感帯とは違う、深雪のよわいところを見つけた事が嬉しくて、つい深追いしてしまう。
 と、ぎゅううと耳を掴まれて、むりやり顔を上げさせられる。
「あ痛たた…!」
「も、もう!」
 真っ赤になって涙目で睨まれてもまったく怖くはないが、後々のことを考えて一度腕立ての要領で体の密着を
解く。
「私もするの!」
 きゅ、と眉を寄せた深雪は、まだ全く脱いでいない嵐のシャツに手を掛ける。嵐がしたようにちゅ、と胸板に
キスをしながらボタンを外していく。
「部活のとき見えちゃうから、跡はつけられないね」
「俺は別に構わねぇけど」
 しれっとそういうことを言わないで、と照れながら一番下まではだけ終わる。きれいに筋肉の乗った身体はほ
ぼ毎日見ているはずなのに、妙にドキドキした。
「さ、さっきのし返しなんだから」
 腹筋につうと舌を這わせて、ちゅっちゅ、とキスを繰り替えす。
「ひ、ちょっと、くすぐってぇ!は、ははっ」
 笑い転げて腕の力が抜け覆いかぶさってきた嵐に抱き締められながら深雪はぷうと膨れる。
「くすぐったいだけなの?」
 軽く青年の腰に添えていた両手を離し、半ば悔しい気持ちで勢いをつけて、股間に手を伸ばす。
「―っ」
 びくんと跳ねた嵐の反応に気分を良くし、その硬くて熱い感触を何度も服の上からなぞる。少しずり上がって
スカート越しの太股でやわらかく挟んでやると、はぁ…と熱いと息が耳元をくすぐった。
「マジで、ヤベェから…ちょっと、止めろ」
「いいよ?出して」
「服が汚れるだろ」
 あ、と今更な事に気付いて深雪は動揺する。いつもは真っ裸だから、ついそのままと言ってしまったのだ。
 忙しなく片手でベルトを外し、ジッパーを下げる仕草をじっと見る。
「へ?」
「ぎりぎり、だから、ちょっとこのまま」
 スカートを捲りあげられたかと思うと、下着に包まれたままの股部分に嵐自身を擦り付けられる。
「すげ…やわらかくて、すべすべだな」
「や、やん、なに?あらしくん?」
 擬似セックスをも言える行為に、よく分かっていない深雪も煽られる。股間を行き来する熱に、しっかり濡れ
そぼっている性器を擦られてじわりと下腹部が熱くなる。
 スカートを汚してはいけないとギリギリの所で嵐は思い出し、深雪の腰の下にタオルを突っ込む。温かく張り
のある太股の間に何度か擦りつけ、タオルに射精する。
「う…くっ…」
 きゅっと眉を寄せ耐えるように短い息を漏らす青年の表情が間近に見え、深雪の鼓動が跳ね上がる。彼が達す
る時の表情をはっきりと見るのは初めてで、その色気に脳味噌が真っ白になる。
「は、悪かった。…て、何ボーっとしてんだ、深雪!」
 揺すってもぼうっと放心したように嵐を見つめてくるその表情に、悪戯心が湧き上がる。耳の後ろ、彼女の髪
型なら隠れてしまうところに強く吸い付く。
「ひゃ!あ、あらし、くん!」
「跡、つけたから」
 にたり、と笑って見せると、やっと何時もの調子でもう、やめてよね、と返事が返ってきた。
 そのまま又、キスを繰り返して抱き締め合う。顎が痺れるまで貪ったあと、じりじりと熱の溜まる下半身を密
着させる。
「そろそろ、いいか?」
 飽きることなくキスの合間にも胸に触れていた嵐の手が、深雪の下着にかかる。
「うん」
 完全に捲りあげられて腰に溜まっているスカートの下、あまり色気のない普段ばきのそれを剥ぎ取られる。
「ゃんっ!」
 折角よく見えるから、ちゃんといいところを探してやりたいと嵐は身体を起こす。足をM字に軽く曲げてやり、
ひくつくそこを覗き込む。
「やー!見ないで!」
 暴れるのを片手でいなし、下着を完全に取り去ってしまう。白い太股の間には、うるんだ赤色が息づいている。
「たしか、ここ」
 上部に潜む小さな突起を親指で押しつぶしてみる。
「―っ!ひぅ!」
 こりこりと弄るたびに、面白いくらいに少女の身体が跳ねる。
「あ!あんっ!やぁん!」
 腰が持ち上がってタオルを握り締める手に力が入り、靴下に包まれたままの足先も反っている。
「はあぁ…」
 きゅとつまんで擦ってやるとかくんと肢体から力が抜け、膣口から透明な液が滴る。
「ここ、そんなに気持ちいいか」
 ぷくりと膨らんできたそれにふぅと息を吐きかけると、それだけでがくんとひざが折れた。
「うん、イい…ッん!でも、も」
「ん?」
 すう、っと伸びてきた深雪の指が自身の秘裂を指でおずおずと開いた。愛液を零す膣口と充血したひだが青年
の眼前に晒される。
 目線で嵐をを呼び寄せ、覆いかぶさるその耳に小さな声で、少女は欲を口にした。
『あらしくんが、欲しいの』
 その言葉に、若い雄が暴走した。性急に少女の体内へ指を沈ませ、狭洞をかき混ぜる。
「いっ…、くふぅ、ぅん」
 二本目の指もねじ込まれ、中を拓かれて行く。かなり苦しさが勝っていたが、腹側の一点を抉られたとき信じ
られないほどの快感に一気に内壁が緩んだ。
 ここだな、と低い声で囁かれ、容赦なくそこを抉られる。
「ひぃあ!ぃ、ひぅ、つよいっ、だめぇ!」
 じゅぶじゅぶと厭らしい水音を立て始めたそこが恥ずかしくて、身をよじる。本能むき出し、といった態で乳
房に吸い付かれると声も出せないほどに快感が溢れた。
 いつの間にか三本目の指も添えられ、ゆっくりと出し入れされるようになる。
「もう、いい、だろ?」
 顔を覗き込みながら、荒い息で問われた言葉に、深く頷き両手を伸ばした。

 ぎゅ、とカッターシャツの背中にしがみ付き、滑る生地に爪を立てる。膝立ちになった嵐は深雪の腰を掴み、
ゆっくりと位置を合わせて、侵入を始める。
「ん、ん――っ」
「っ―きっつ」
 深雪もできる範囲で挿れ易いように、足を折り曲げて股間を広げる。しかし経験の浅い少女はまだ、侵入され
るときの息苦しさと痛みに馴れない。
「ごめ、なさぃ、ちょっとまって」
「―っ、十数える間だけ、でいいか」
 腰を掴む指に力が入り、嵐の限界も感じるが、入り口はひりひりするし胃にせりあがるような気持ち悪さが抜
けない。律儀に十数えたあとわりぃと囁いて、奥までじりじりと雄がねじ込まれた。
 きゅうきゅう締め付けてくる内壁は熱く、それでいてやわらかく嵐の陰茎を包む。只、辛そうにしがみ付いて
くる深雪の様子だけが行動に歯止めをかけていた。彼女の呼吸に合わせてゆっくりと腰を引き、出来るだけ彼女
のいいところを擦るように挿れる。
 気を紛らわせるためにあとを残しながら腹に口付け、胸の先端に軽く吸い付いてつうっと舌で喉から顎先まで
を舐めた後、かみ締められた下唇を舐め何度も口付ける。
「あんっ、あらしく、ん」
「…、ん?」
「も、イイ、よ?」
「キツく、ないか」
 こくこくと頷く様子にがぶりとシャツ越しに深雪の肩を噛んで、腰を思い切り引いた。
「やー、やぁ…あ…ぁ、ぁぁ」
 奥、ペニスがやっと届くかというくらいの奥にたたきつけると、がくがくとふるえて少女は死にそうな声を上
げた。
「はー、は、すげ…」
 ずぶ、にちゃ、という粘膜の触れ合う音と肌を打ち付ける音が柔道場に響く。
「やぁ、ぁあ、ふぅあ、えぅ」
「―っ、っつ、く」
 獣のように交じり合い、深く抱き締めあう。この上ない充足感と快感の中二人はほぼ同時に達した。
「はぁ、は、はぁ」
 全力で運動をした跡のように息が切れ汗だくになった嵐を、同じくらい汗みずくな深雪がタオルで拭う。ま
るで部活中のようなその場違いな仕草に、笑いがこぼれる。
「シャツ、張り付いちゃったね」
「乾かせば良い。なんならジャージ着ればいいだろ」
 不意に交わしたその会話で、今の状況を少し思い出し壁にかけてある時計に目をやる。
「もう、授業始まってるな」
 そう言って嵐は腰を引く。それすらも気持ちよくて、深雪はぎゅっとしがみ付いて小さく喘ぐ。
「いまからすぐ、じゅぎょうなんてむり」
 陰茎が引き抜かれてしまうと、とろとろに溶けた深雪はタオルに沈んでしまう。足だけ体育座りの様にしてい
るため、とろりと蜜を零す赤い襞が息づいているのが見える。
「―サボるか」
「へ?」
 意外な言葉に、よたよたと半身を起こし嵐のほうを覗き込む。
「お前が許すなら、サボろう」
 少し考えた後、うんと深雪が小さく呟いてそっと見上げると力いっぱい抱き締められた。
「今日、お前は部活早退な」
「え?あ―…た、立てる位にはよろしく、お願いします」
 まだ力を失わない性器を下腹部に押し当てられ、ゾッとすると同時に熱く中が疼いてしまう。
「…?それ?」
 ゴムを付け替える嵐の手元を見て、深雪が疑問を口にする。シンプル極まりない銀の包装にゴム色のそれしか
知らない少女は、華美な袋に驚いたようだ。
「新名がロッカーに隠してるのを持ってきた」
「え…」
 確かに言われてみれば、黒に金とショッキングピンクの蝶模様はナンパな後輩の趣味ではある。が、学校にそ
んなものを置いている神経が知れないし、それを勝手に借りるというのも良くわからない。しかし、興味がない
わけではない。
「…あの、良かったら、私が着けたげようか」
 使用済みのゴムを縛り、手元のタオルにくるんだ嵐は予想外の申し出にほんの少し驚く。
「お前がしたいんなら」
「お、押忍」
 大体、明るいところではっきりとそれを見るのも初めてなのだ。要領のいい嵐がさっさと準備を終えてしまう
ので、普段はあまりそういった隙がない。
「え、と」
 きゅと勃起した陰茎を握り、取り出したゴムを片手に逡巡する。ただ、被せればいいと思っていたが意外と複
雑な形状に考え込んでしまう。結局、苦笑いした嵐に手を取られ、逐一説明を受ける羽目になり、きちんと被せ
られた時にはやった、と小声で言ってしまう。
「うん、覚えたよ、次からは出来る」
 根が真面目な為こうしてこうしてこう、と復習をしている深雪を、とん、と軽く突き倒す。
「きゃ」
「次、も良いけどな」
 先程と同じ姿勢で腰を抱えあげられ、身構える前に深く犯された。
「あぁぁあ、ぅあ」
「悪い、動くから」
 浅く、深く容赦なく揺すぶられて下半身の感覚が無くなって来る。腰がとけるような、身体が重たくなるよう
な全身を包む甘い感覚に息が上がる。
 ぐうっ、と今までになく深く突き入れられたときばちんと目の前が弾けた。
「ぁ!なんっ!なにこれぇ」
 面白いように跳ねる深雪をより追い詰めるように、嵐がどんどん深く打ち付けてくる。
「奥、イイんだな」
 耳朶に吹き込まれた言葉に煽られて、深雪は小さく達してしまう。
「うん…おく、きもちい…の」
 とろんとした瞳で、舌たらずに、もっときてと強請られ我慢など出来ない。ずっずっという摩擦音とあふれる
蜜が跳ねるぴちゃぴちゃという音がどんどん激しくなる。
「あ、あっ…あぅん!ぅん!」
「やべ、お前ホント…」
「ふぁ!ぁ!やぁ、あ…」
 気持ちいいと跳ねる場所をごりごりと擦ってやると、涙と涎を垂らしながら痙攣する。
「あ…」
 きゅうぅっと蠕動ずる胎内に、彼女の限界を知る。わざと浅いところで何度か往復し、手前の感じるところを
擦ってやる。
「っ、…っ、やだっ、やだ…おく、きて、ぁん!」
「な…んだ?こっちも、イイだろ」
 ぜいぜいと息をつきながら、深雪は首を振り必死に訴えかけてくる。
「ら…って、ぁ、らしくんのあつくて、…もちいぃから、いっぱい、ほし…の、あぅ!」
「も、だまれ」
 ぐっ遠くまで押し付けると、深雪の脚が嵐の太股に絡みつき、縋る腕とあいまって全身でしがみ付いてくる。
「はー、っ」
「―――ぁ…」
 痙攣するように達して、二人でぐちゃぐちゃのタオルに倒れこむ。
 息が上がりきっている深雪を抱き締め半ば無理矢理キスをすると肩に爪を立てられた。深い位置で陰茎が固定
されるのが苦しいのかも知れない。しかし彼女の呼吸と同じペースできゅうきゅう締まる中は、嵐を食んで離さ
ない。
「…もっと繋がって、ぐちゃぐちゃにかき回してぇ」
「あ、ぅ」
 むき出しの欲望に、深雪が赤面する。もう一度食いつく様に口を塞がれて、口内を嘗め尽くされると何も考え
られなくなってくる。
「…っ!―っ!ぅあ!あ!」
「深雪…」
 ずぶずぶになった中は打ち付ける様に侵入して来る雄を飲み込む。
「や、もぉ、…くぅ」
 勝手に腰がふるえ、ねじ込まれる雄を歓待する。最奥を打たれるたびに溢れ、それでも足りないと思ってしま
う。
「あらしくん、あらしくぅ、んっ!」
「みゆき…っ」
 まさに盛りのついた獣そのもの、と言った態で激しくお互いを求め合う。
「くぅ―」
 かくん、と糸が切れたように深雪が脱力して達する。その収縮に持っていかれるように嵐も吐き出し、ぐった
りと伸びる。
「はぁー、はぁ」
 青年はずるり、と繋がりを解き、やさしく何度も少女の髪を撫でる。
「はぁ、もう、だめ」
「やりすぎたかも、な」
 ぐちゃぐちゃで腕に引っかかっているだけのシャツにウエストのところで丸まったスカート、なにやら液体の
ついた靴下ではとても外には出られないだろう。
「だめ、も、意識がもたな…」
「保健室に連れて行くから、安心しろ」
 何度も撫でる手の感触が嬉しくて、ことんと深雪は失神半分意識を手放してしまった。

■ オリジナルモブ登場
「起きたの?」
 次に目を開けたときには、夕日の差し込む保健室のベッドで養護教諭に顔を覗き込まれていた。一瞬状況が分
からず、今何時ですかと問おうとしたが声が出ない。
「あら、声も出ないのね」
 改めて全身を見ると、ジャージに素足という格好だ。
「彼氏くんが抱っこして連れてきてくれたのよ、頭打って失神したんですってね」
 いいわねえ、と含み笑いをされ、ばちんと記憶が蘇る。
「え、えと、えっとぉ」
 かあぁっと真っ赤になる深雪を、教諭はかるく撫でる。
「いいのよ、正しい意味で青春じゃない。あ、でも避妊はちゃんとしたでしょうねえ」
 俯いて、しました、とちいさく応える生徒が可愛らしく、教諭はつい意地悪な質問を重ねたくなる。やりまく
った挙句保健室で昼寝しようとする者や、コンドーム貸してと堂々と現れる生徒、さらには保健室をヤリ場所に
しようとする輩との戦いで最近うんざりしていたのだ。
「もう夕方の五時半よ、立てるなら私が送るから帰りましょう」
 いいんですか、と応える真面目さにまた新鮮さを感じる。廊下に出て、生徒の下足場に女性とを支えながら向
かうと、待ち構えたように男子生徒が立っていた。
「嵐君!部活はどうしたの?」
「お前を家まで送ってから、行く」
 その会話を聞いて、邪魔者は退散するか、と教諭は一歩退く。
「じゃあね、ちゃんと送るのよ!」
「押忍」
 過度にべったりすることなく自然に寄り添って歩く生徒二人の姿に、溜息が漏れた。
「いいなぁ、青春だなあ」


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -