眠る姉さんを見ていたら、なんだか目覚める前のことを思い出して焦れったくなった。

だから、というわけではないけれど早く仕事を終わらせようと思う。旦那に全部訊くんだ。俺の知らない姉さんを、旦那は知っている。


「あれ?」

「どうした?」

「…いや、なんでもない」


目的地にちらりと見えた橙色。もしかして神楽?なんて冗談だ。偶然にしては出来すぎててなんだか笑える。なんの策略だ。

本当に神楽だろうがそうじゃなかろうが、俺には関係ないけれど。弱い奴は、弱い奴だ。


「邪魔だ、どいてくれよ。言った筈だ。弱い奴に、用はないって」


あぁでももし神楽だとするなら、ひとつ教えてあげてもいいかもしれない。


「姉さんが、神椰姉さんが見つかったよ」

「!?」


目を見開きながら落下していく神楽を横目で見る。死にゃしないだろうけどもうどうでもいいや。

会いたいなら、意地でも生き延びて意地でも会いに来る。あいつはきっとそうする。俺だってそうする。残念ながらシスコンなところは似てしまったようなんでね。

餓鬼を片手に旦那の元へと向かう。目的は決まっている。

ちゃんと仕事もこなさないといけないし、旦那と戦いたい。そして姉さんのことを訊くんだ。


♂♀


「もうとっくに超えているよ。家族だなんだとつまらない柵に囚われ、子供に片腕を吹き飛ばされるような脆弱な精神の持ち主に真の強さは得られない。旦那、あなたもあの男と似ているよ。外装は剛つくても中身は女と酒しかない。真の強者とは強き肉体と強き魂を兼ね備えた者。何者にも囚われず、強さだけを求める俺にあんた達は勝てやしないよ」


そう。強さだけあればいい。今までずっとそうだったんだ。これからもそうだろう?

そう確信してたから、旦那が笑い出したとき反応に遅れた。


「面白いことを言う。家族……いや、姉に囚われているのは誰だろうな?」

「それは…!」


言い返そうとして口を閉じた。図星だった。

だって、仕方がないじゃないか。ようやく、大好きだった、そして大好きなお姉さんに会えたのだから。ただの言い訳にもなりはしないけれど。


「なんにしろ、あやつとは縁を切った方がいい」

「……姉さんのなにを知ってるんですか」


知るのが怖い。でも、知りたい。震えた声に気づかないふりをして、旦那を見据えた。

話す気になったのかは知らないけれど先ほどまでの突き刺すような緊張感は消え、変わりに音がないと勘違いするほどの静寂が訪れる。この場の支配者は、今はあの男だ。

余裕そうな笑みを浮かべ、旦那は口を開いた。


「人体実験……春雨が長年研究していることは知っているだろう?」

「えぇ、興味はありませんが」

「実験台は大抵地球産だったが…稀に違うものでも行ったらしい」


嫌な予感がする。確信はできないので怪しむ程度だが、もし俺の勘が当たっていたら…。


「……人型の天人だ」


息を飲む。人体実験ってだけで胸糞悪いのに。下手したら旦那も俺も阿伏兎も、実験台になっていたかもしれないわけだ。

その後も、俺が黙っているのをいいことに人体実験について語る。


「天人でも失敗作ばっかりでな。ただ地球産よりは成功に近い。最終的に天人での実験ばかりになったが……最終的に成功したのは一回だけだった」

「それが私だよ、神威」

「姉さん!?」


いつもより少し儚げに、悲しげに笑った姉さん。でもその中に今とは違う、昔の面影が見えた。

昔から姉さんは、幼いながらに全てを察したようなどこか達観した笑顔を浮かべる人だった。

それが母さんのせいなのか親父のせいなのか俺のせいなのか神楽のせいなのか…はたまた夜兎であったためなのかはわからない。けれど、その笑顔に姉さんとの距離を感じ、憧れた。

双子なのに、姉さんは俺よりたくさんのことを知っている気がして、置いて行かれる。そんな気がしたんだ。

今だって、そうじゃないか。


「ごめんね、神威。全部思い出したよ。ネタばらしをしようか」


ほら、そうやって俺を置いていくんだ。




(私を知ったら、神威は私を避けるんだろうね)


20140114
新年あけましておめでとうございます!今年もよろしくどうぞ

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