俺は知らなければならない。今の姉さんを知らないで終わらせるんじゃなくて、今の姉さんを知らなきゃいけないんだ。

そう決意を固め吉原を歩く。顔をオープンにした途端女が群がってくるのだから本当に単純だ。


「兄さん、こっちだよ」


透き通るような、鈴のような、凛とした、そんな声で喋りだしたらさすがに女だとバレてしまう。コクンと頷く姉さんは本当に可愛い。

姉さんのことを知りたいのは山々だけれど、それよりさきに仕事を済ませなければいけない。その後に調べるしかない。


町を照らす煌びやかな建物。その華やかさを競い合うかのように並ぶ建物のなかで、一際目立つ屋敷。あれが今回の目的地だ。

媚びを売ってくるブスな女たちを適当にかわしながら、建物の中心部へと乗り込む。お前等なんかじゃ姉さんには適わない。


案内された部屋まで行けば、俺が幼いとき憧れたあの人がいた。もっと豪快に酒を飲んでいるのかと思っていたら、そういうことでもないらしい。

もっと酒に溺れてると思ってたんだけど。あぁ、でもこの人は酒より女に溺れてる。


「お久しぶりです、鳳仙の旦那」


視線がこちらに向く。…いや、俺じゃない。もっと奥だ。どこだ。

答えが出る前に旦那が口を開く。


「お前…コードナ「私には、ちゃんと名前があります」

「姉さん!?」


気付かなかった。俺より後ろにいたはずの姉さんが、前方に座る旦那の眉間に触れそうな距離で番傘を向けていた。

仮に目で追えない、ってことがあっても気付かないってことはないはずだ。生きてる者の気配ぐらいわかる。姉さんの気配だってそこにある、のに。


「そうか…お前神威の双子だったか、久しぶりの再会じゃないか……今まで何処にいた?」

「…すみま、せ」


「ちょ、姉さん!!」


なにかが切れたように崩れ落ちた姉さんをとっさに支える。こんな華奢な身体の彼女のどこに、あれだけの動きができる筋肉があるんだ。


消えない。さっきの鋭い殺気を旦那に向ける姉さんの目が、消えない。

あれは優しい人の目じゃない。殺すことに慣れてしまった、俺たちの目だ。


「そやつ記憶がないのか?」

「…みたいですよ」

「なら、手放したほうがいいぞ」


こちらを見ずに、酒を飲みながら坦々と告げた旦那に怒りがわかわないわけがなくて。走り出そうとした俺の肩に誰かの手が触れる。

そうだ。まだ暴れちゃいけない。暴れるなら明日だ。明日なら思う存分暴れていい。


姉さんを抱きながら、旦那に背を向けた。今日は、大人しくするしかないじゃないか。




(旦那は姉さんのなにを知ってるって言うのさ)


*20131007
厨二病注意報ぐらい



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