上に報告を済ませたり姉さん専用の部屋を用意したりとバタバタした一週間を終えて、今現在。あれから姉さんは目を覚まさない。


「なんで?夜兎、だろ?」


姉さんに問いかけても返事はない。あるのは規則正しい寝息だけだ。

明らかに可笑しい。夜兎なのはもちろんだけれど、ただの夜兎ではない。この俺の双子なんだ。

傷はもちろんない。身体に異常はない。それでも、出会ったとき以来姉さんの目は開かれていない。

誰が悪いとかそういうわけではないけど俺は多少なりとも苛ついていた。荒々しく立ち上がり、ドアへ向かう。倒れた椅子なんて知らない。

ただ、もう少し待てば良かったと思う。このとき微かに姉さんの指先が動いた、なんて気付くはずなくて。



全く持って理不尽な理由で阿伏兎に書類を押しつけ、少しばかり落ち着いた俺は再び姉さんの部屋に出向いた。

頭の中で想像できるほどに染み着いたその景色を思い浮かべ、自分を嘲笑った。きっとこれから見るものもなんら変わりない。むしろ全く一緒だろう。

そう思って、いたのに。


「神椰…?」

「!?」


虚ろな眼が俺を捕らえる。なにか胸騒ぎがする。

姉さんが目覚めたというのに、嫌な予感がして仕方がない。ようやく目覚めてくれたんだ、嬉しいはず。なのになぜか焦りばかりが募る。


「神椰…起きた、の?」

「えっと…あなたは……」


掠れた声で、「だれ?」と呟いた。頭を鈍器で殴られたようだった。

あのとき確かにこの人は俺の名前を呼んだはずなのに、その人が嘘偽りない純粋な目で、俺を誰か?と尋ねた。いや、そんなの可笑しいじゃないか。

今ちょっとだけ忘れてるだけなんだ。きっとすぐ思い出す。そうなんだろ?姉さん。


「えっと、私は神椰って名前なんですか?」

「うん…」

「あなたは?」

「…………俺は神威。あんたの双子だよ」

「神威…うん、覚えた」


覚えた。その言葉に涙腺が緩んだ。覚えたんじゃなくて、知ってるはずなのに。

目を閉じて涙を堪える。今俺が泣いたってなにも解決しない。姉さんを困らせるだけだから。笑ってほしいから。

再び姉を見れば、どういう心境の変化があったかは知らないが懐かしい笑顔。いつもこの笑顔で大丈夫だよって言ってたっけ。安心させようとするとき、この笑顔を浮かべてたんだっけ。


なんだ、変わらないじゃないか。例え姉さんが俺を双子だと認識していなくても、俺に向けてくれるあの笑顔は変わらない。




(私が笑ったら彼も優しい表情をしたのが嬉しいと感じるのは、双子だからでしょうか?)


*20130411
合宿と新学期と忙しい…新入生勧誘大変……うわあああ



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