俺には確かに双子という存在がいたのだけれど、それが生きているのか。生きていたとして何処にいるのか。どんな容姿でどんな声でどんな性格かということを、知らない。ぶっちゃけ俺の双子という時点である程度の予想はつくが、推測までで断定はできない。

辺りに広がる白かったはずの花畑は、数分前に赤に染まった。それはもちろん俺のせいだけれど、そんなのは関係ない。問題なのはその花だ。


「白いアドニスねぇ」

「………」


おっさんのくせによく知ってるね、なんて皮肉を思いついた。だがそれを実際に言うことはしない。

今はそんな気分じゃない。


「赤や紫、黄色のアドニスはよく見かけるけが白、ねぇ。まぁあるっちゃあるが珍しいな」

「今では赤いけどね」

「このすっとこどっこい!誰の仕業だと思ってんだよ。それにこれは赤いというより」

「赤黒い。いいじゃん。俺達にはこの色のが似合いそうだ」


乾いた声で笑えば阿伏兎は息を吐いた。間違ったことは言ってないつもりなんだけど。

あぁでも少し訂正したほうがいいのかな。俺がさっき言った俺達っていうのは夜兎を指す言葉のつもりだったんだけどあいつは、姉さんは違う。

白が似合って、儚くて、もしかしたら消えてしまうんじゃないだろうかって。そんな繊細な人だった。気がする。実際幼い頃に姿を消したが。


「アドニス…深い愛だっけ?」

「あ?なにがだよ」

「花言葉に決まってるじゃないか」

「知らねーよんなもん」

「流石にそこまでは知らないか」


阿伏兎のくせに花の名前を知ってたんだ。それだけで奴の認識を改める必要性を十分に認識させてくれた。花言葉まで知ってたら最早奴は阿伏兎じゃない。

はっきりは覚え出せないけど、ちゃんと覚えている。片割れは大事な存在だったから。姉さんがくれる深い愛情に溺れてたから。

緩い三つ編みに白いチャイナ服。全体的にぼやける印象だけれど、そこに一点紫の番傘。俺達の無地とは違い、白で描かれた桜が散っていた。

生きているかわからない。そんな女に、強く強く焦がれた。




(姉さん……)
(この呟きが、届くはずなくて)


*20130227
阿伏兎が花の名前知ってるとかなにそれ怖い



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