恐らくここだという場所にはたどり着いたが、鍵がかけてある。護衛というのは、この扉への侵入を防ぐということでいいのだろうか。

「こんにちは、日輪様」

「貴方は…?」

「神椰と申します。旦那に貴方様の警護を頼まれました」


命令には背かない。感情はいれない。無機質に、淡々と言葉を並べた。

言った後に、ギィ…と古めかしい音をたてながら扉が開いた。部屋の中に照明はなく、外からの光が照らすだけ。外からといっても、空がないここでは明るいものではないけれど。

中にいる女性…日輪様は私に笑いかけた。外から見たときと変わらず、豪華な衣服を身に付け…いかにも吉原の姫といった感じだ。

旦那が付けたのだろうが…足首に付けられた鎖により動きを制限されている。自由になれない。

少しだけ私と重なった。でも、お姫様と一緒にしちゃあ、いけないよね。私は奴隷だ。

細くて白い手が、私を招く。それに従い日輪様にひざまずく。


「……神椰さん…貴方も、あの人と同じなの?」


あの人、とは旦那のことだろうか?質問の意図が測りかねる。

思わず彼女の顔を見上げた。


「なんのことでしょう?」

「あの人ね、太陽が大好きなの」

「太陽が…?そんなわけ…」

「太陽が大好きだけど、近付けないんですって」

「……」

「神椰さんも、大好きななにかから逃げてるんでしょう?」


夜兎と太陽は宿敵だ。それでも恋い焦がれるなんて、旦那は相当な馬鹿だ。なにが夜兎の王だ。

私も変わらず馬鹿だということを言いたいんだろう。また、神威と暮らしたい。望んではいけないことにも関わらず。


「それは…何故ですか?」

「だってあの人と同じ目をしてるもの」


この人は、相手が誰だろうと臆さず物を言うんだろう。旦那に、太陽についてなにかを言ったんだろう。

やっぱり私と重ねちゃいけないや。私よりずっと強い。

日輪様はその柔らかい手で私の手を包み込んだ。他人の温もりが久しぶりな気がして、なんだか泣きそうになる。

神威だって温もりをくれる存在だったのに。私が、拒絶したんだ。


「あの人を反面教師して、素直になってもいいんじゃないかしら」

「……そう…ですね」


すごく彼女の言葉は有り難い。でも駄目なんだ。

拒絶した以上もう駄目で、今からはもうやり直しがきかないことで。それに私を理由に迷惑をかけるわけにはいかないんだ。


死神。存在を消し去る者。故に私の存在を良く思わない人がいる。故に、だ。私と一緒にいる人は殺される。




(お前との出会いは、死を意味してたんだな)(まるで、本物の死神が来たみたいだよ)


20140301
早くアドニス終わらせる予定〜プロットがようやく完成しましたぜ!

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