いつも笑顔の神威が、驚愕の表情を向けている。その原因が私だと思うとどうしようもなく寂しくなった。 ごめんね、神威。今から話すことはきっと、君にとってとても残酷なことなんだろうね。 「だいたいは旦那から聞いてたよね、今から話すのはその前後のことかな」 でもあくまで私は神威の双子で、姉だから。彼の姉らしく飄々と、なんでもないように言ってやるんだ。 私の紫色の番傘には、こんなときにも鮮やかに桜が咲き誇っている。皮肉だ。 「そうだなぁ、最初に私が姿を消したときの話をしようか」 私が姿を消したのは、まだ5歳のやっと暴力を覚えたばかりの頃だった。夜兎だからと虐められ、貶され、それが悔しかったらしい神威が一生懸命拳を握っていた頃。 一方の私は呑気に畑を耕したり、花壇を作ったりと、要は夜兎らしくなかった。これに尽きる。 それが原因になるとは思わなかった。 狙いやすいと、思われたのだろう。花壇を眺めているときに、後ろから睡眠薬を持った天人に襲われた。その後は成るようになれ。されるがままだった。 十分に周りの世話はしてくれたけれども、大事な実験台だったのだから当然と言えば当然のこと。実験は拉致をされて数日後のことだった。 「…これが姿を消したときと、実験を受けるまでの全部。なにか質問は?」 「なんで抵抗しなかったの」 「そりゃあ現役バリバリの春雨武闘派に適うわけないでしょ」 「でも姉さんは無抵抗だったんだろ!?そんなの…」 「神威が知ってる私は、喧嘩をよくしていたかな」 「……」 してないはずなんだ。私が暴力を振るうようになったのは実験後なのだから。 ふと、遠くの騒音が聞こえた。どうやら早く話を終わらせなくちゃいけないみたいだ。 「じゃあ次は実験が終わってからの話かな。あれから私はね、道具として生きてきたんだよ」 簡潔に言えば春雨の奴隷だった。それだけ。 戦場に送り出されたり暗殺の義務を負ったり。遂行しなければ付けられていた首輪から電流が流された。 そして、日々能力の向上を求められた。正確に、取り返しのつかないことになる前に。その訓練のお陰で私は首輪だけを消し去ることができたのだけれど。 「最後にひとつだけいい?」 震えた声。恐らく、私が神威に応えられる最後のワガママだ。 そうわかっていたから、飛びっきり優しく聞き返したのだ。 「なあに?神威」 「姉さんは実験を終えて…なにになったの?」 ごめんね、神威。言っても傷つくんだろうけど黙っていても君は傷つくんだろうね。 無知は罪という。ならば、その罪を神威が被せられないように。私が神威にできる最後のことを。 「……死神、かな」 (それは全てを消し去る存在) 20140215 厨二予告は何度もしてまっせ(逃げ ←BACK |