最近、姫宮さんによく話しかけられる。

別に最初は気にはしなかった。彼女にこんなに絡まれるほどの、なにかをしたかと考える程度はしたけれども。

ただ、ここまで来るとさすがに怖いと思ってしまうのだ。私、本当になにかしたっけ?


「咲希ちゃん、次の移動一緒に行こう?あ、お昼も一緒に食べたい!」

「いいけど…」


お昼って!お昼って!お昼って…!姫宮さんといえばクラスでも中心的グループに属してて、移動はもちろんお昼もずっと一緒に行動してたはずだ。

そのグループの子たちはその子たちで、高尾君とお幸せになんて言ってくるし本当にわけがわからない。…いや、一緒に勉強してたのが原因なのだろう。

そして私は咲希ちゃんなんて呼び方を今まで彼女にされたことがない。どういう風の吹き回しだ。

兎に角、姫宮さんだ。私としては、彼女といるのが苦痛とまでは言わないがでも疲れるのは確かだから。


姫宮さんに着いていこうとしたとき、誰かに腕を捕まれた。見てみれば、我らが副部長だ。

清々しい笑顔で彼女は言い放つ。


「ごめん、咲希と大事なお話があるの。姫宮さん、他に一緒に食べれる子いるよね?」

「う、うん。じゃあ咲希ちゃん。またあとでね?」


言い方は良くないかもしれないけれど、彼女の笑顔はどうも胡散臭い。いかにも作り笑い。そんな顔するなら私と関わらなきゃいいのに。

そそくさと姫宮さんが去っていく。隣に立つ副部長はやっぱり余裕の表情だ。


「どうしよう、部室でもいい?」

「いいよ、任せる」


じゃ、決まりね。そう言いながら誰かさんみたいに明るく笑った。誰だっけ?

今に始まったことじゃない。彼女の笑顔はいつだって太陽みたいに眩しくて、それでいて安心させられる。とても居心地がいいのだ、彼女の隣は。


なんてことを呑気に考えていたが、その彼女は今までにないほど顔を歪ませている。怖い。

部室に着くなり、彼女は怒りを爆発させたのだ。


「姫宮まじふざけんな」

「あ、いやあの私のために怒ってるんならいいからね。私あんまり興味ないし……」

「だから駄目なの」

「ええ!?」

「……ごめん、聞いちゃった。従兄弟のこと」


思わず目を見開く。肺がなにかに鷲掴みされ、息が思うようにできない。苦しい。

バレるような、迂闊な行動をとっただろうか?確かにこの前下校中に会ってしまったけれど、彼女とは校門出てすぐに別れてしまう。なおかつ私の家の近隣はお世辞にも栄えてるとは言い難いので、彼女がこちらに来るメリットも思い浮かばない。

いろいろな思考が頭を駆け巡る。頭が重い。吸った息が、出ていかない。

そんな私の様子を察してか、彼女は私の背中をさすった。


「私も一緒なの。実は……高尾の従兄弟なの私」

「…っえ?」

「だから言いたくないって気持ち、わかるよ。相手がモデルじゃあ尚更ね」


乱れた呼吸を整えるべく、深呼吸をする。吸ってー吐いてー、吸ってー吐いて。

ようやく落ち着いたところで、口を開く。いや、頭は全然落ち着いていないけれど。

「えっと…じゃあ、高尾君から聞いたの?」


困ったように彼女は笑う。

やはり高尾君が喋ったようだ。副部長だから問題ないとしても、あとで文句のひとつやふたつ言わなきゃいけない。

涼太と従兄弟だということは、トップシークレットだ。


「私はね、あいつと仲良かったんだよ本当は」

「本当は…?」

「そ。虐められたり嫌み言われるのが嫌で、関わらないように頼んじゃったんだよね」

「まぁ…私たちよりはずっといい関係でしょ」

「だろうね」


それから高尾君と彼女の話をたくさん聞いた。少しだけ、安心する。

高尾君と彼女の関係が悪いわけではないけど、それでも隠したいんだと知って、安心した。なんにしても、さつきちゃんと青峰君との関係がやはりベストなのだろうけど。

お弁当を片づけ、立ち上がる。昼休みもそろそろ終わりだ。


「って違う!」

「なにが?」

「従兄弟だってこと理由がなかったら暴露しない!姫宮が知ってるの!」

「…私と黄瀬のこと?」

「そう!あいつが高尾に、咲希は黄瀬君と付き合ってるから騙されちゃ駄目だよって!」


まさか、姫宮さんに知られてるなんて。真っ先に言い回りそうだけどそうじゃなかったことは良かった。これからどうかがわからないけれど。

まぁ、なにかあったら皆に従兄弟だって言っちゃうだけだし。なんて諦めたりもしてる。小学生の頃に戻るだけだ。

一番イヤな結末。だけれど。


「気をつけて」


いつになく真剣に話す彼女に、背筋がひやりとする。


「姫宮はね、一年のときから高尾にゾッコンなのよ」

「ゾッコン?」

「大好きなの惚れてるの。それに運命だと思ってる」

「え?」


頬が強ばる。姫宮さんについて詳しくはないけど、今の私のポジションは相当危ないんじゃないのだろうか。

もうすぐアンサンブルコンテスト。ごめん高尾君、私は今は音楽に集中したいんだ。

ずきり。心が軋む音がした。




(いつだって音楽が一番だったから)(でもいつもと違って割り切れていない)


20131229
いつもと違う書き方したらちょっとよくわからなくなったので次からいつも通り書きますん


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