高尾君の手に誰よりも速くバトンを渡せるように。私なんかのせいで足を引っ張らないように。

別にヒーローなんかになりたいわけじゃないし、もちろん目立ちたいわけでもない。目立つことの恐ろしさは、涼太を見てきた私はよく知っている。

でも、迷惑はかけたくない。推薦された以上、託された以上。例え自分の意志が反映されていなかったとしても手を抜くことはしたくない。


「おま、本当になんでもできんだな」

「…なんでもはできないよ。出来る範囲のことを全力でやるだけ」


実際、出来る範囲のことしか人間出来ないんだから。出来ることをわざわざしないほど、まだ腐ってないつもりだ。


半袖では肌寒かったはずなのに走っていればそんなことは全然なくて、むしろ暑いくらいだ。この季節に体育大会とはなにごとだ、なんて去年は思っていたけれど。真剣にやればちょうどいいのかもしれない。

チラリと時計を見る。授業終了まであと10分。5分前に集合がかかるだろうから、練習が出来るのはあと5分…。


「高尾君」

「ん?どした?」

「バトンパスのとこ集中的に練習しようよ」

「わかった!」


ちなみにこのリレーは縦クラス対抗だ。1年3組の女子からスタートして次に男子、次は私、そして高尾君。さらに3年3組の先輩へとバトンを回していくのである。

だからバトンパスといっても私から高尾君のターンしか授業では出来ないけれど、スムーズにいったほうが良いことには変わりない。


「行くよー」

「おう!」


パスゾーンのだいたい25メートル前から走る。全力で走るんだ。手は、抜かない。




(普段走らないからこれ筋肉痛になりそう)(マッサージでもすりゃいいじゃん。俺したげよっか?)(……高尾君が言うとなんか卑猥)(なんでだよ!)


*20130922
哀れ高尾。支部によくお邪魔している私には君は変態にしか見えないのだ!(断言)



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