帝光中とは比べものにならないほど小ぶりな体育館の半分で活動する高尾君。なぜだか凄く輝いて見える。

私は、あれほど全力で楽器を吹いていただろうか。


「荒木!来いよ」

「私バスケはしたことない」

「ちょっとだけでいいから」


休憩時間らしく、コートはがらりとしている。ベンチではマネージャーが忙しなく働いていて、支える側も大変なんだなぁとまるで他人ごとのように思った。実際、他人ごとだけれど。

高尾君の手招きに応じ、ゴール付近に立つ。同時に彼はボールを放った。緑間君ほど洗練されていないものの、綺麗だ。高尾君らしい。


「音楽って難しい?」

「そりゃ…技術と表現の両方が必要だし…」

「音楽の勝ち負けってなに?」

「そんなの聴く人によって変わっちゃう、曖昧なものだよ」


じゃあさ、と高尾君は続ける。やっぱり目的は見えない。


「バスケの勝ち負けってなんだと思う?」

「えっと…点数が多いほう、でしょ?」

「そ。単純に出来上がってんだよバスケってのは。荒木は考え過ぎなんじゃね?」

「考えすぎ?」

「きっと黄瀬も単純だと思うんだよなぁ、バスケみたいに。俺みたいに!」

「っはは、確かに高尾君は単純だね」


今はなにが目的かわからない。だけど、楽しいは楽しい。好きは好き。それがはっきりしてるんだ。

涼太は、どうなんだろう。嫌いは嫌い。そんな気がして何故だか悲しくなって。あぁ、やっぱり、


「涼太に嫌わたくなかった、なぁ。なんで好きになっちゃったんだろう。今は、普通の幼なじみでいいのに」

「ちょ、せっかく笑ったのに泣いちゃうのかよ!」


ポンポンと頭を撫でる高尾君の手が気持ち良くて、また泣きたくなって。

高尾君になら、素でもいいかもしれない。素なんかどっかに置いてきちゃったけど、もう一回探してもいいかもしれない。

顔をあげれば私よりちょっとだけ大人びた笑顔の高尾君がいて、釣られて私も暖かい気持ちになって。

笑えてるかな?笑えてなくてもいいや。この気持ちを伝えたいんだ。


「ありがとう…!」


休憩終了!そんな声が遠くで聞こえた。




(練習頑張ってと言い残し少女は去った)(残された少年はひとり顔を赤く染め佇んだ)


*20130811
休憩時間のきせき



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