「私の大好きなテツ君です!」


今までで一番の笑顔に、なんだか私まで微笑ましい気持ちになった。季節はずれの桜が舞ったみたい。

彼女の言うテツ君は、黒子テツヤという名らしい。その苗字通りと言っては失礼だけれど、黒子のように存在感を消しみんなのサポートをする……他のキセキの世代とは真逆なバスケをするらしい。

私の周りも、どちらかというと私も支えるなんてことしないし恐らくできないからどんなものなのかと思う。そういうものに徹してつまらなくはないのだろうか、なんて考えてしまう。


「貴方が会長の妹ですか」

「いつも兄がお世話になってます」

「いや、僕のがお世話になってます。ありがとうございます」

「………いえ、なんかすみません」


怖い。素直にそう思った。まさか建て前の挨拶に限らずお礼まで言われるなんて思ってなかった。

なにを考えてるのかわからない。裏がありそうで、それが怖い。さすがに涼太は怖いなんて思いはしないだろうけど苦手なんじゃないだろうか。なんたって、涼太だし。


そう思ってたのに、


「黒子っちー!」

「なんですか黄瀬君」

「練習!付き合ってほしいッス!」

「……仕方ないですね、咲希さん失礼します」


今なにがあったのかわからなかった。ただ、でも、あれは、あの涼太の笑顔は作った笑顔じゃなくて、素の笑顔だと思う。

今となっては家族や、私の兄などの心を開いた人にしか見せない。そして昔、まだいろんな人と出会う前……2人で遊んでいるときに私にも向けていた笑顔、だ。


「咲希ちゃんときーちゃんって仲良くない?」

「…な、んで?」


突然の問い、それが私にとっては重いものででも大事なことで、一瞬にして周りの音が聞こえなくなった。

そんなことないよ。って嘘でも言えば良かったのに。なぜか逃げちゃいけない気がする。さつきちゃんの目が、とても真剣だから。


「きーちゃんってね、テツ君のこと大好きなんだよ。だから咲希ちゃんとテツ君が一緒にいるのが嫌だったんじゃないかなー」


まぁ推測だけどね。そう付け足してさつきちゃんはふにゃりと笑った。

なんだか凄くやられた気分だ。さつきちゃんにも、涼太にも。特に涼太。ふざけんなあの野郎。

人のこと散々人間不信にしといて、まぁ涼太もそうだからそれでもいいかなって思ってたのに。涼太よりも、人とまともに関われると思ってたのに。あいつは、このバスケ部で心を開くことができる人がいる。

それに、あいつの素は悪いものばかりだと思っていた。大事な相手に向ける素が、私が知らなかっただけでちゃんとあったんだなって。


「………あ、そっか」


涼太が私を受け入れない理由。思い出した。忘れたらいけないのに、寂しくて悲しくて目を背けてたこの気持ち。

ずっと昔。まだ私たちが無邪気に遊んでいた。そんな頃。私は涼太が好きだった。




(嫌われても、仕方がない)(私自身も、涼太の人間不信の理由だ)


*20130511
お待たせしました!この一ヶ月ハードだった(;O;)



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