「涼太…」


敏感な彼はきっと、小さく呟いただけでも気づく。案の定怪訝そうな顔を浮かべたけれど、高尾君の存在を認識しすぐに笑顔を浮かべた。

誰も愛想笑いだなんて気づかない。そんな完璧な笑顔を。

だから私は涼太が好きじゃないし好きになれない。これから先好きになることもきっとない。


「えーと…咲希と同中?」

「そ、同クラでバス部の高尾金成君」

「おい誰だよ金成って!!時は金成り!?いやまぁなんとなく似てるけど!」

「じゃあ高尾和行」

「惜しい!惜しいけど違う!」

「…高尾金行」

「まさかのそっちセレクト!!!」


涼太がイラつき始めたので(笑っているけど)そろそろこの茶番も終わりにしよう。とっさに思いついたことだけれど、高尾君がツッコミを入れてくれてしらけるなんてことにならなくて安心。

たまにウザいキャラになるがそれはあの兄譲りだ、仕方がない。


「えーと、高尾和成君だよね?」

「疑問系かよ」

「下の名前興味ないし。で、こちらが高尾君の会いたがってた黄瀬涼太」

「来てくれてありがとね、宜しくッス」

「こちらこそ宜しくお願いします!!」


来てくれてありがとね……か。私に向けられる視線はそんな歓迎ムード漂うものでない。逆だ。わざわざ連れて来やがってふざけんなってそう言いたいんだろう本音は。

会った時点で涼太が機嫌を悪くするのはわかってる。だからもう自然体でいようと思う。彼を怒らせたくないのなら、さっきの名前のくだりもタブーだ。

とりあえず、自己紹介も済ませたところだし私は帰りたい。帰りたい。せめて練習したい。

練習………


「高尾君、その手はなにかな」

「荒木が行こうとしたから…?」

「いやいや、わかんない」


なんなんだよカレカノみたい。もちろんそんな関係になった記憶はないんだけど。

つくづく振り回されてるなぁと思う。ここで反抗するのも面倒だ、やめておこうってその思考がまずダメなんだろうけどもうどうでもいい。

と、言いたいところだがこれだけは譲らない。練習時間を削るなんてことはできない。ただでさえ今日一日練習の予定だったんだ。バス部見学なんてやってらんない。


「ごめん練習したいから」

「まぁいいじゃないか、荒木さん」

「あとで生徒会室行くからとりあえずバスケ部見学でもいいんじゃね?」

「………」


先程まで少し遠くで話していたはずの兄と部長さん。本当になんなんだ。グルかグルなのか。

自分たちは練習しといて、私にそれを見学しろと?気に入らない。最早ここでもいいから楽器を吹いてしまおうかとまで思ってしまう。


「……楽器吹いてていい?」

「許可するよ。その代わり君には僕たちを知ってもらおう」

「…意味あるの?」

「生徒会長の妹に存じ上げてもらえるとは光栄だろう」


どれだけ生徒に好かれてる会長なんだ。女子生徒はともかく男子生徒にまで好かれてるなんて想定外だ。みんな本当の姿を知らないんだ。

そう心の中で嘆きつつ、部長に手を引かれる。誰が相手だって私は流される側だ。




(部長の赤司征十郎だ)(知ってそうだけど荒木咲希。一応よろしく)(あぁ)


*20130201
忙し過ぎてそれと同じように話もごちゃごちゃしてる_(:3 / ∠)_

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