05

無事就職先も決まったので、家事手伝いから始めようと決めたのはつい先ほど。

そう、本当につい先ほど。具体的に言うなら、三分ほど前。にも関わらず、私の駄目人間っぷりが発揮されてしまったのです。


「……麻希乃ちゃん、あのさ」

「悪気はなかったんです!ただ初めてやっただけで…!」

「ねぇ君いくつ!?卵くれぇ中坊でも割れんだろ!」

「そうなんですか!?」


まじかよ的な視線はスルーすることにしよう。私が気にしなければならないのは、床に広がる哀れな卵たち。

自分で割ったのだから、自分で片づけなくては。どう片付けたらいいのかわからないけれど。


「さっさと片づけるぞ」

「任せてください!…と、え?」


かったるそうに頭を掻きながら歩いてきた坂田さんの手には雑巾が2枚。1枚目は絶対に私の分。私が片付けなきゃいけないんだし。

だとしたら、もう一枚は?も、もしや水拭きしてからの乾拭きというめんどくさいパターンなのでしょうか。めんどいな。


「おら、手伝え」

「さ、坂田さんの手を煩わせる必要は…!」

「どーせできねーんだろ自称駄目人間」

「…………」


言っていることは厳しいのだけれど、坂田さんの優しさが伝わってくる気がした。この人はきっと、不器用なんだ。素直じゃないんだ。優しくしてるって自覚もないんだ。

いろいろとダメ出しをされながらの掃除だったけれど、不思議といやな気はしなかったのです。




(え、え、床びしょびしょになっちゃった!)(ちょ!ちゃんと絞れって!)


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*20121117
男の人の優しさはストレートじゃなくて遠回しなのが好き



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