12 万事屋の前まで来たのはいいものの、どうにも部屋に入るのが怖い。拒絶されたら、追い返されたら、どうしよう。 坂田さんはああ見えて実は優しい人。そうわかっていてもやはり怖いのだ。 ふと、初めて訪れたときのことを思い出した。定春と衝突して気絶しちゃって、耳元で叫ぶ坂田さんと神楽ちゃんに怒鳴っちゃって、志村さんと互いに謝りあって。 まだ数ヶ月しか経ってないのに、ずっと前のことのように感じる。それはきっと、毎日が楽しくて楽しくて仕方がないから。 毎日毎日迷惑しかかけてなかったけど、あの3人の会話が面白いのと、なによりその3人の会話に交じっているときが本当に楽しい。もっともっと、彼らの輪に入りたいってそう思うから。 「ただいま帰りました!」 戸を引きながら大きな声で言う。子供っぽくったっていい。実際まだまだ子供なんだから。ね? 木に染み着いた甘くて、しょっぱい匂いが鼻を擽る。同じ木に染み着いた匂いでも煙草よりこっちのが全然いいです。 「麻希乃!?会いたかったアルヨ!」 「麻希乃さん!おかえりなさい!」 遠慮なしに抱きついてくる神楽ちゃんには思わず顔をしかめてしまった。ごめんなさい。でも私だって本当に嬉しくて、目的を忘れてしまいそうになる。それじゃ、ダメなんですけどね。 「坂田さん、いる?」 「奥にいるアルヨ」 「ありがとう」 左手に持っていた荷物の無事を確認し、奥へと向かう。そこにはいつも通り、だるそうに社長椅子に腰掛ける坂田さんがいて。あれ?眠ってる。 本当はすぐにお話したい。でも起こすのも申し訳ない。 少しだけ悩んで、私が出した結論は荷物を机に置いておくということ。タッパーに入れて持ってきたし、保冷剤もまだまだ保ちそうだから、大丈夫。 「頑張って作ったんですよ、食べてくださいね」 聞こえてないのはわかっていても声に出さずにはいられない。 坂田さんとお話するまで、少し家事でもしようと思う。雅さんに教わったことを実行しないと意味がない。 家事にはまだやっぱり自信は持てないけど、両親と同じ味がするらしいお団子。そっちには自信があります。 だから坂田さん、私のこと、ちょっとだけでもいいので認めてください。 ♂♀ 「頑張って作ったんですよ、食べてください」 頭に響くように聞こえてきた声に、俺の意識は浮上した。だが昨日の仕事の疲れかまだ朦朧としていて、その声が誰のものかがわからない。 誰かは気になるがそれを今思い出そうとするのもめんどくさくて、再び眠ろうとしたとき、ふと甘い香りがした。 その香りに釣られるように瞼が持ち上がる。みたらしの匂いだ。 目に入ったのは桃色の布。どうならタッパーが包んであるようで、開けてみれば案の定みたらし団子だ。一緒に包まれていた紙には「万事屋のみなさんへ 麻希乃」と随分達筆な字で書いてある。 字は綺麗なんだな、なんて思いながら団子を一口。 「…うめぇ」 今まで食べた団子の中で間違いなく一番美味しい。ほんのりと甘いみたらしは少しだけ香ばしくもあり食欲が増すし、団子自体も弾力がありでも固くない。本当に美味しいものだった。 万事屋のみなさんへ。その文字が再び目に入り、小さくため息をついた。 一人占めしちゃおっかななんて思ったけど、そんなの麻希乃ちゃんが望んでるわけじゃねーよな。神楽にばれるのはこえーし。 とりあえずは冷蔵庫に保管しといて、直接美味しかったって言ってあげようと思う。きっとあの子は照れくさそうに笑うだろうから。 (麻希乃ちゃん、団子美味しかった…ってなんだよこれ)(洗濯物の畳み方ちゃんと教わるの忘れてました…!)(…もっかい行く?)(〜っ!今教えてもらってきます!)(いってらっしゃい) *20131221 とりあえずは真選組編終わりです ←BACK |