留三郎が突然家に来いと誘ってきた。なんの風の吹き回しか。明日は雨霰槍台風竜巻どれがお出ましだと聞いてみればただおかしげに笑うこいつ。何か裏があるには違いない。だというのにのこのこやって来てしまう俺は本当に阿呆だ。だってよく考えてもみろ、一緒に三十分の帰路に着いたってのに、一度も喧嘩にならなかったんだぞ。つい、来てしまう。
「面白い映画、兄貴が見てんだよ。お前が好きそうだと思ってな。なぁ、見ないか」
俺以外の奴にしか見せない人懐こい笑みを浮かべて、紅茶まで用意してくれる留三郎。どうしたというんだ本当に。明日は雨霰槍台風雪仙蔵どれだ?どれが降ってくる?
そして普通に始まる映画。内容は確かに留三郎が言うとおり、俺の好きな映画。所謂アクションものだ。アクションというのは日本のものより洋物の方が格好いいと思う。そしてこれは見事に俺の興味ドストライクだ。紅茶飲む手も止めて、つい魅入る。
するとくすくすと笑い声が聞こえて、少し顔を留三郎に向けてみりゃ笑ってやがる。何笑ってんだよ、と聞いてみると、だって、と留三郎。
「あんまりに真剣なもんだからよ。なんか」
失礼なやつだと思いながらも、その笑顔につい黙り込む。俺という男は大層甘い。いつも喧嘩しているやつの笑顔なんて何が楽しいんだと自問自答、解答はまぁ、もう。…好きだからに決まっている。
とことん馬鹿だ、俺は。ため息を吐き出して一先ず紅茶を最後まで、ぐぐっと飲み干す。もう大分温くなったそれだが妙にたくさん入った砂糖すらも気にならないほど、俺は映画とこの状況に満足していた。
そして映画がやっとクライマックス。主人公とボスの戦い、決着がつくか否かの最終決戦。留三郎と時折じゃれながら見ていたら話の展開も案外早いものだ。この映画が終わってしまえばこれで留三郎のこの態度も終わりかと思い名残惜しいが、しかしそういえば、こいつはなんだって。
こんなに機嫌が、ん、え、あれ?



「…とめ、さぶろう」
突然体から力が抜けてどさり、と重い音がした。起き上がろうとしてもやっぱり体が持ち上がらない。名前を呼ぶのがやっとだ。目を動かす気力すらない。何故だ。と思ったけどすぐ理解した。そうだ。こいつはあくまで留三郎なのだ。
そう。こいつは俺の恋人の、食満、留三郎、だ。
「やっぱ恋人と喧嘩しないでいられんのって気分いいんだなぁ。ずいぶんいい表情見せてくれたじゃねえか、文次郎」
くつくつ。さっきとは違う、怪しい笑み。体に重みを感じて、留三郎が俺の上に跨ってきたところで漸く俺を嘲ていることに気付いた。本当に俺は馬鹿だったのだ。
「俺が、お前に優しくするわけないだろ?」
ほら、兄貴からもらった…麻酔薬?みたいな感じ。暫く体に力は入んないんだってよ。ざまぁ。
べっ、と舌を出して嘲る笑みにどうしてかそそられる。瞼を細めて身震いすると変態、なんて帰ってきて。それは別にいいが頼むからそこは触るな!
「そんじゃ、」
いただきます。
そんな声が聞こえて重ねられた唇に、俺はどうして抗うことができようか。やはりこいつは俺の、俺の恋人の、大嫌いな食満留三郎だ。くそう。
明日は雨霰槍台風雪仙蔵どれもこれも降ってきはしないだろうよ。だって今日もいつもとおり、なんてことない普段どおりの日常だ。ちくしょうめ。覚えてろ!












s/u/r/f/a/c/eの「ハ/ニ/カ/ム/ハ/ニ」がまさに留文留すぎる。
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