水の中に沈んでく。海は全てのお母さんなんだって。まさにその通りで、体から力を抜けばなんの抵抗もなくこの身すら受け入れ、冷たい水もやがては暖かくなって優しく包み込む。目を閉じれば、海よりずっとずっと上にある太陽が、きらりと海の中の隅々まで照らしているのがわかった。
「三郎次」
名前を呼ばれても、返事はしなかった。口からこぽりと泡があがっていく。体の中の酸素が消えていくけど、不思議と苦しくはなかった。体から力を抜くといずれかは海面に上がっていくはずなのに、体はある一定の場所で安定し、そこから浮くことも沈むこともなかった。完全に、お母さんなる海はこの体を受け入れてくれていた。力を抜いている分ゆるりと揺れる波が心地よい。
頭の中には、もうなんにもなかった。それまで考えていた悩みや他愛ないこと、希望も何もかも全部、頭の中から全部全部消えてった。そんなことどうでもいいのよとお母さんは言っているんだろうか。そう考えたら確かに全部がどうでもいいような気がしてきて、考えることをやめる。
「三郎次」
名前を呼ばれても返事はしなかった。三郎次はこぽり、こぽり、酸素を海の中に溶かしていく。いずれは全ての酸素が消えてしまうだろう、それでも苦しさを感じない三郎次にとっては、どうでもいいことのように感じられる。
名前を呼んでいるのは誰だろう。
そう思うことすらもないまま、三郎次はそうと、意識ごと全てを手放した。



「三郎次!」
はっと目を覚ますと、心臓から冷水が全身に急速に渡っていくようだった。慌てて声のした方へ振り返ると、嫌そうな顔をした左近がそこにいる。お前なあ、と吐き出された前置きはやたらに期限の悪そうなものだった。
「いい加減、任務中の感極まった時に寝る癖やめろ!敵が近くにいて狙ってたらどうすんだ!真っ先にお前、殺されるぞ!」
「はあ」
「はあって、お前な!」
がつんと頭を一発殴られ、その痛みに少し不満を感じたりもしたけれど三郎次はあえて文句を言わずに辺りを更にぐるりと見渡した。標的であった城はごうごうと、面白いくらいに燃えている。そういえば三郎次・左近含む五・六年生チームは、まさかここまで自体が大きな騒ぎになるとは思ってはいなかったために教師ら一同から撤退を命じられていたのだ。
「ああ、もういい、行くぞ。三反田先輩たちも待ってんだ。遅いとかとやかく言われたら、面倒くさい」
ため息を吐き出しながら、左近は三郎次の手首を有無を言わさず引っつかんで素早くその場から駆け出した。三郎次も転ばないように同様の速度で駆け出していく。ごうごう燃える音が少しずつ、少しずつ小さくなっていく。
あれは夢であったのか。
あまりに現実味を帯びていたものだから、三郎次は現実なのだと疑いもしなかった。目を覚ました今でもあの海水が羊水のように暖かく自分を包む感覚を、三郎次は覚えている。
(夢)
暫くすると久作たちが怪我をしたとかで立ち止まっていて、その怪我をした本人である四郎兵衛を左近が背負い、そのまままた四人で駆け出した。六年生がうるさそうだなあと久作が言う。その六年生の中にはきっとあの人もいるだろう、しかし心臓が高鳴っていく予感はしなかった。
こぽこぽと、酸素が海の中に溶けていく。あともう少しで全ての酸素がなくなるような、そんな気がしていた。しかしそれは結局現実にはならずじまいで終わってしまったのだ。ぼんやりと三人の背中を追って、あの青い世界を、思う。
(嗚呼)
俺は死んだら海になりたいのだ。
そんなくだらないことを悟れば、ぼやぼやしてんなと久作からの拳が脳天に振ってきた。










妹に「好きなキャラとか関係なくふと頭に浮かんだキャラ言って」と言ったら三郎次と応えられたので。
あの人というのは誰でもいいけど私的には藤内。藤ろじ好きなんです、マイナーなのはハマった瞬間から知ってる。
ところで池富はあるけど富池ってないんですかね?
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -