「一平は、孫次郎がもし違う顔だったりしても、孫次郎のこと好きになったりしてた？」
「…何それ。僕が孫次郎を顔で好きになったって言いたいのか？」
「や、そういうわけじゃないけど…俺、未だに理解出来ないよ。なんで孫次郎なんだ？いや、なんで男なんだ？」
「好きになるには、性別なんて関係ないっていうだろ」
「そうだけど。でも、一平ならいい女が周りにいそうじゃないか。くの一は差し置いても…」
「やぁくの一の玩具的存在に一年い組学級委員長」
「うるさいなほっとけよ！今はそんな話してないだろ！！いいから質問に答えろよなお前！！今日は本当に真面目なんだって！」
「孫次郎は言っとくけどあげないよ」
「いらねーよ！」
「なんだってこら」
「なんで怒んだよ！！？」
「いってぇ…なんで俺が殴られなきゃなんないんだ」
「うーん…孫次郎が違う顔だったら、ねぇ…」
「…性別が違う、とかでもいいよ。もし、孫次郎が今の孫次郎じゃなかったらってことなんだから」
「どうしてそんなの興味あるの？」
「なんとなくだよ。どこかでそんな話題を聞いたような気がしたから」
「変な彦四郎」
「一平もな」
「うーん」
「で、どうなんだ？」
「わかんない、かな」
「へぇ。それは意外だ。てっきり即答で姿形なんて関係ないよとか言うかと思った」
「わからないよ。とりあえず僕が出会ったのはあの孫次郎だ。孫次郎があの姿でいない可能性なんてわからないし、実際に目の当たりにしていないから、僕には検討もつかない」
「ふーん…。…で、なんで男なんだよ」
「男が好きなんじゃなくて、孫次郎だから好きなんだよ」
「わからない。そういう感覚」
「わからなくていいよ。彦四郎ってそういうの疎そうだし」
「失礼だなお前」
「だって結局、お前あの人が好きだって自覚したのあの人が卒業するその日の夜だったじゃないか」
「あれは、たまたまだよ」
「たまたまねぇ。ふーん」
「…なんなんだよ」
「いいや？別に」
「…なあ」
「何？今日は質問が多いね、彦四郎」
「もし、もしだよ、来世で巡り合えたら。二人はまた結ばれると思う？」
「わからないよ」
「目の当たりにしてないから？」
「僕は、輪廻っていうのは元々信じていないから。…それでも、結ばれることはなくたって、もう一度会えたら幸せだよ」
「全然違う姿でも？」
「うん」
「全然違う性格でも？」
「うん」
「…わからない。そういうの、本当に」
「彦四郎、さっきからそればっかりだ」
「いいだろ、別に」
「ねぇ、本当に今日はどうしてそんなに質問ばかりするの。いつもは大して面白くも無い会話ばかりしているじゃない」
「…面白くないとかいうなよ」
「本当のことだろ」
「いつも大爆笑してるのは一平のくせに」
「くだらなさすぎて笑えるのさ」
「何それ。わかんない」
「わかんないばっか。でもいいんじゃない、それでこそ彦四郎だ」
「…わかんない。……わかんないよ」
「ねえ彦四郎」
「うん？」
「それじゃあ、逆に質問するけど」
「うん」
「僕たち、今と全然違う生き方をしていたら、出逢っていたと思う？」
「…いや、ないんじゃないかな。一平の家は農家、俺ん家は呉服屋だ。出身だって違うし、きっとすれ違うことだって、噂を聞くことだってない」
「じゃあ、今と同じ生き方でも、姿形も、性格も違っていたら？」
「…それは…わからない」
「だろ」
「…あ。…ああ、確かに、そうだ」
「そんなもんなんだよ。結構人間って」
「そんなもんでいいのかな」
「いいよ」
「いいのか」
「うん」
「…変なの」
「彦四郎が？」
「人間が」
「今更すぎるよ、それ」
「はは、そうかもしれないな、はははっ」
「なんか笑ってるし」
「だって、なんか、笑えて」
「僕、彦四郎のそういうとこわかんない」
「いいよ、はは、一平になんか、わかってもらえなくて、っぐぇ！」
「なんかって言うななんかって」
「あはは、ははははっ、ははっ」
「…はあ。馬鹿彦四郎」
「うん。ごめん。ありが、とう」
「わかんない。なんで礼言うの？」
「さあ」
「わかんない、よ」