お風呂から出た後、最近でた好きな漫画の新刊をベッドで寝転びながら読んでいたら部屋のドアをノックされた。
どうぞーなんて適当に言いつつ扉が開かれる音を聞き届ける。
控えめの声で「ナマエさん」と呼ばれて私は読んでいた漫画をパシン、と勢いよく閉じつつそちらへ視線を向ける。
すると見慣れた彼の姿に私はそのままベッドの上でばっと上体を起こして彼を見つめる。
少し艶やかな髪の毛を見る限りお風呂に入った後の様だ。
「飛雄くん!?」
「えと、会いたくなってきたんすけど……迷惑でした?」
「全然、寧ろ嬉しい!」
そう言うと少し照れたように頬を赤らめる彼は最近付き合いだした年下の彼氏。
私は今年で大学一年生になるが、彼は高校一年生だ。
家がお隣さんで仲が良く、小さい頃から弟の様に接してきていた彼に告白された時は嬉しさより年の差が心配になってしまった。
今ではそんな事気にならないくらい大好きなんだけどね。
おいでおいでと隣をポンポンして呼ぶと、彼はおずおずと隣に座ってくれた。
すると飛雄くんはあれ、と不思議そうに声を発した。
「それ、どうしたんですか?」
「え?」
「足」
眉をきゅっと顰めながら私の足をじっと見つめる。私はこれかと足を小さく揺らした。
その両足の小指に絆創膏が貼ってある。
「この間特別講義あってね、普段私服なんだけどスーツで学校行ったんだよね」
「へぇ」
「スーツだとヒール履かないといけないんだけど、これまた私の足にあってなくてさぁ」
「なんであってないの買ったんですか」
「他にいいのなくてサイズあってたしいいかなって、長距離歩くことになるのは予想外だったの」
普通のヒールなら足の裏やらが痛くなるのだが、あのヒールは爪先の部分が少し収束される形になっていて、小指が圧迫されていたのだ。
それのせいで今回は小指が犠牲になられたというわけだ。
ヒールには依然慣れなくて、スーツじゃなくても足の裏がやられたりする事が多かった私は大して気にしていなかった。
けど飛雄くんは気にしていた様で、ベッドから床に座り直して足の裏に手を滑らせた。
そのまま壊れ物を扱う様に少し持ち上げられ、じっと見つめられる。
「うわ、豆潰れちゃってるじゃないですか」
「帰るまでが遠足状態だったからね、別に我慢しとけばいいかなって」
「……ほんと、あんた自分の事適当すぎなんですよ」
飛雄くんはそういうと、ちゅっと可愛らしい音を立てて絆創膏の貼られた小指へ口付けた。
「ちょっ飛雄くん!?」
「痛いの我慢するのも、自分の事蔑ろにするのもやめてください」
「んっ……し、しないから、やめっ」
ちゅっちゅっ、と足の至る所にキスをしたかと思えば、パクリと親指を口に含みねっとりと舐められる。
驚きと一緒に変な気持ちが沸いてきて、それを誤魔化す様に私は叫ぶ。
「ちょ、汚いってばっ」
「? 綺麗ですけど」
駄目だ、変なところで純粋天然っ子だから困る!
私があたふたしていると、飛雄くんは訝し気な表情で私を見上げる。
年下の、それも男の子の上目使いにドキドキしてるなんて、私ホント駄目かもしれない。
「ホントにわかってるんですか?」
「わかった、わかったから!」
熱くなる頬を隠さずにそう言うと、ようやく足が解放された。
空気にさらされて少し冷たく感じた親指が、舐められた事を主張してきて恥ずかしい。
「なんで顔赤いんですかナマエさん」
「……飛雄くんのせいでしょ」
「恥ずかしかったんですか?」
「……」
「ナマエさん可愛い」
そう言って私の隣に座り直してギュっとしてくる飛雄くんには、もう一生勝てない気がした。
―――――
この間私の足がそんな感じで犠牲になった時にふと思いついたので書いてみた。
スーツ用のやつ、サイズあうのなくて仕方なかったんですよ……足小さくて悪かったな……
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