実戦があった。私はいつも通り、‘敵’を斬った。何てことない顔して、任務として、忍として。

冷徹、誰かが囁いた。それは正しいだろうか、私が聞きたい。
天才、誰かが嘯いた。人殺しの才能など、誰が必要としようか。

私は決して誰かを殺す為に強くなったんじゃない。自分を守る為に力をつけたんじゃないんだ。ただ、ただ私は、


「三郎くん?」

「………」


殺気立った私に声を掛ける者などそう多くはない。誰かと振り返る前に分かっていた、ふわりと柔らかな声の持ち主


「タカ丸、さん…」

「実習終わったんだね、おかえり〜」


ふにゃり、どこか猫を連想させる笑顔。明るい髪の毛が風に揺れて、眩しさに思わず目を細めた


「わ、さ、三郎くん?」


ぐるりと腕を回し抱き締めると、微かに香るタカ丸さんの匂い
少し焦りながらもおずおずと背に当てられた手は暖かく、私は目を閉じて抱く腕に力を込めた


「すいません。私、血の匂いがするでしょう」

「怪我してるの?」

「…いえ、返り血です」

「そっかぁ、よかった」

「……?」


何がいいのか、少し身を離し真っ直ぐにその目を覗く
するとタカ丸さんは安堵したように目を細め、笑った


「三郎くんが無事なら、それが一番でしょ」

「…でも、替わりに誰かを傷付けてるんです。冷たい人間でしょう、私は」


自嘲すれば、彼は微かに寂しそうに睫毛を震わせ目を伏せる
三郎くん、そう名を呼んで、彼の手が私の方へと伸びて


「三郎くんは、冷たくなんかないよ。すごく、優しい人だよ」


暖かい指が、私の目尻を拭った
じわりと視界が揺れて、泣いていたのだと気付いたのは今更
戸惑う私をタカ丸さんは優しく抱き寄せて、赤子をあやすようにポンポンと背を叩く


「だから、大丈夫」


心地好く響く声が、優しいリズムを刻む掌が、あまりに暖かいから
私は溢れる涙を止められずに、その温度に縋るように顔を埋めた

私は、誰かを殺す為に強くなったんじゃない。自分を守る為に力をつけたんじゃない。ただ、ただ私は、

大切な人を、失いたくなくて
守れるだけの力が欲しかったんだ


「タカ丸、さん」

「うん?」


この暖かい手も、いづれ誰かを傷付けるんだろうか。この優しい人は、どれだけ傷付くんだろうか。


「タカ丸さんの目に、この世界は、どう映っていますか」


戦ばかりで。誰かが傷付いて、死んで、悲しんで。それすらも忘れられていく世界。
私の目には、暗く淀んでいて


「おれは、すごく綺麗だと思うよ」


夏の強い日差しや、冬の白い雪、秋になると葉は紅く染まって、春になれば桜が舞う
きらきらとした目でそう言うタカ丸さんが、私にはとても眩しくて
彼の見る世界は、学園で彼と見た景色は、確かにどれも美しかった
だからこそ、思う


「…そうですね」


貴方にはそうやってずっと、笑っていて欲しいと










世界のことなんて知らずにいてよ

(血に濡れた、世界なんて)
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