月丘は真っ赤になって俯いて、こくりと小さく頷いた。



「そか」
「そんなの聞いてどうするの、意地悪だ」
「…嬉しいんだよ」
「うそ。高瀬好きな子いたし、今だっていっぱい恋してるじゃんか」
「そりゃ…そーなんだけどさ」
「嫌味」
「…ごめん」

すとん、とその場に座り込むと、月丘も俺の前に座り込んだ。

「ううん、こっちこそごめん。高瀬だから許す」
「え?」
「嬉しいって言ってくれて、わたしも嬉しい」
「月丘…」
「だって、桐青のエースの高瀬準太だよ。好きになる人いっぱいいるよ」
「……」
「わたしだって…その一人だったんだもん。高瀬にとっては大勢の中の一人だろうけどさ、昔の憧れの人に好きになってくれて嬉しいって言ってもらえたら、喜ぶよ」
「……んと、なんかちがう」
「え?」

「月丘の言いたいこと全部わかる。俺だって嬉しい。けど、それは俺がエースだからすごいとかじゃないし、大勢の中の一人じゃない」

月丘の頭はキャパオーバーっぽい。さっきまで照れてた表情は、今は普通に戻っていた。
やっぱり、俺は月丘にとって「昔の憧れの人」でしかないんだ。

「たか、せ?あの、ごめん、もっかい説明」
「ふざけんな」
「えーなんで!」
「(あ〜〜〜〜キスしてぇぇぇぇ)…けど、我慢」
「??」

今、言ってしまえばいいのに。
けど、月丘、俺に全然どきどきしてない。それを思い知らされた今、やっぱりダメだと思ったら、…やっぱりダメだった。
言って、距離を置かれるより、このままがいいって思ったんだと思う。

けど…

「高瀬、あの、手」
「え?…あ、わり…」
「いや、悪くは、ない、けど」

ぎゅーっと月丘の手を握ったままだった、なんか情けない俺の両手。
月丘は俺の顔を見ていた。から見つめ返したら、ぱっと視線を逸らした。(ん?)

「悪くないんだ?」
「え、…放さないの」
「だって、悪くないんだろ」
「…暑くない?」
「月丘は寒いんだろ」
「寒くないよ、…むしろ」
「暑い?」
「……」

月丘の手が熱い。顔も少しだけだけど赤い。

「あの高瀬、やっぱり悪いから放そう」
「やだよ」
「なんでよ」
「逆に聞くよ、なんでだよ」
「こ、こんなとこ高瀬のファンに見られたら、わたし死ぬ」
「いやここ月丘の部屋だし。見られないし」
「わわ、わたしの部屋で二人で、しかもこんなの、」

…わかった。多分俺じゃなくても、ファンとかいなくても、月丘はどきどきするんだ。
そりゃそうだよな。月丘ってただでさえそんなに男友達いないのに、こんなの、どきどきするよな。
俺じゃなくてもきっとそうだ。ていうか、俺は月丘の腐れ縁の友達っぽい立ち位置だし、きっと俺じゃないほうが恋に落ちやすい、と思う。

でも、


「俺でも、どきどきしてくれんの?月丘」


月丘の顔が、また真っ赤になった。

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