「あっ、みちるちゃん!」
「みちる姉!」
「みちるだもんねー!」

京子にハル、リボーン、イーピン、ランボ、フゥ太。
それぞれが、みちるに対して思い思いの言葉をかける。

「山本!千崎!おっせーぞ」
「千崎さん、来てくれたんだね!」

そして、獄寺とツナも。
みちるは、目蓋の奥に集まる熱を、抑えるだけで精一杯だった。



「僕 ゲームセンター行きたい!」

フゥ太は無邪気に提案すると、獄寺と山本、そしてその肩の上に乗っているリボーンが、その後をついていった。
ツナと京子、ランボとイーピンは自動販売機の傍で休憩中。
みちるが、どうしようかとキョロキョロしていると、その腕をハルが勢いよく掴んだ。

「わっ」
「みちるちゃーん!ボーっとしちゃってどうしたんですか?」
「え、あ、ボーっとしてた… かな?」
「してました!せっかくみんなで遊んでるんだから、みちるちゃんも楽しんでください!!」

みちるが勢いに押され口許だけ笑うと、ハルはにっこりと微笑んで、「獄寺さん山本さーん!ハルたちも入れてくださーい!」と言いながら、ゲームセンターに近寄っていった。
その腕は相変わらず、みちるの腕にしっかりと絡んでいる。
みちるは、あたたかなハルの手のひらに、切なくも、嬉しくてたまらなくなっていた。

ここにはすてきな友達がたくさんいる。
もうこの世界は、わたしにとって漫画の中の出来事なんかじゃないのだ。
だって、こんなにも心を揺さぶられる。こんなにも、ハルちゃんの手はあたたかい。

…だからこそ、“変化”が、怖い。

(この世界は危険だから… 見えない未来が、わからないことが…怖いよ…)



ハルは、ゲームセンターに入ると、いつもの調子で獄寺に突っかかっていった。
みちるがそんな彼らの背中を見つめていると、外からものすごい爆音が鳴り響いてきた。

「な、なんですか!?」
「なんだ、今の音…」
「みちる姉!」

フゥ太がすかさず外に出てくると、みちるの足にしがみついた。
みちるを庇うように、彼女の一歩前へ出ながら。

「フゥ太くん…」
「お前らはここにいろ」
「え?」

リボーンが、外に出ようとしたみちるとフゥ太、ハルの三人を制した。

――思い出せないよ。
外で何かが起こってるのに。

(見たら…何かわかる…かな?)

「…ごめんねフゥ太くん!」
「えっ、あ、みちる姉!?」
「みちるちゃん!?危ないです!」

フゥ太の肩を押し返して、みちるはゲームセンターの屋根の下から、走って出て行った。

ビルの傍で、額に青い炎を灯した茶髪の少年と、銀の長髪の男が交戦している。
みちるはその様子を遠くから見つめながら、考えていた。

(…なんで、こんな大事なこと、忘れてたんだろう…)

――今日は、彼らが、沢田くんのお父さんが、並盛に来る日だったじゃないか。

「おいみちる」

その声にはっとしてみちるが顔を上げると、ぽーいと毛玉がみちるの胸に飛んできた。

「わ、り、リボーンくん、ランボくん投げないでよ!」
「京子とイーピンはハルのところまで避難してろよ」

リボーンはみちるの頭の上に飛び乗ると、「みちる、あいつらのことは知っているか」と訊いた。

「門外顧問組織のバジルくん、…ヴァリアーの、スクアーロ」
「そうだ。お前、調子戻ったみてーだな」
「…そんなんじゃない、よ…」

こんなときに何をのん気な…
みちるは、頭を抱えたい気分だった。

やっぱり、わからないのだ。
彼らの名前がわかったのは、おそらく、姿を見たというきっかけによるものだろう。
この先起こることは、まるで誰かに外から押さえ込まれているみたいに、みちるはさっぱり思い出せないでいた。

「みちる」
「え…?」
「お前は、何も気に病む必要はないからな」

リボーンはみちるの肩まで降りてきて、みちるの頬をその小さな手の平で、優しく撫でた。


「せめて、お前がお前である間は、変わらないでやってくれ」


…どういう意味だろうか。
みちるは、自然と胸にこみ上げる切なくも熱い何かを感じた。


道の向こうで、山本と獄寺が倒され、スクアーロに見下ろされている。
みちるは目を大きく見開き、反射的にそちらに駆け寄ろうとした。
…が、リボーンに制された。

「リボーンくんっ…」
「駄目だ。みちるは、万が一にも死んじゃいけねぇ」


「…いや!わたしは、もう、一回死んでるの!」


みちるの瞳からは、涙が溢れていた。

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