どこでどうネットワークが回っていたのか、獄寺は不思議で仕方なかった。
自分は親愛なる10代目に「千崎、夕方頃目覚ましたらしいですよ」と報告しただけなのに。…ツナひとりだけに。
翌日病院に出かけてみると、みちるの病室は、人で溢れかえっていた。
「おー、獄寺、お前も来たのな」
「…おい、なんだこれ」
にへらとのん気な笑いを浮かべる山本に、獄寺は素直な疑問を投げかけた。
病室にいたのは、ツナの母である奈々をはじめ、ランボ・イーピン・京子にハル・了平・ビアンキ、そして山本。
ビアンキの後姿を見つけると、すぐさま獄寺は腹痛を覚え、さっさと廊下に出てしまったのだが。
「みちる、大人気だよな」
そう言う山本の表情は、穏やかでどこか幸せそうだった。
獄寺はぷいとそっぽを向きながら、ぼそりと呟いた。「…そんなのわかってんだよ」と。
「そういえば、ツっくんどうしたのかしら…」
病室の外にいた獄寺と山本には、奈々のその声は聞こえていなかった。
「――あ、ツナ」
山本のその言葉に、獄寺はばっと顔を上げた。
見ると、ツナがフゥ太の手を引いて、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
そのツナの頭の上には、リボーンが乗っている。
「じゃあね、みちるちゃん……、あれ?」
「あ、ツナさん!」
ちょうど病室のドアを開けて、出てきたのは京子とハルだった。
「遅かったわねぇツっくん、フゥ太くん、リボーンくんも」
「おぉ沢田!何をしていたのだ!」
続いて、奈々・了平・ビアンキ・ランボ・イーピンの五人も出てきた。
「みんな…。うん…ちょっと色々あって」
「そうなんだ。…じゃあ、わたしたちはもう帰るね」
「ツナさん、また明日お会いしましょうねっ」
「フゥ太…」
京子やハルが思い思いに別れの言葉を口にする中、前に出たのはビアンキだった。
「みちるは大丈夫。だから、しっかりするのよ」
ビアンキに優しく頭を撫でられ、フゥ太は決意の込められた瞳で、こくりと頷いた。
ツナが病室のドアを開けると、みちるが嬉しそうに「沢田くん!」と言って笑った。
「久しぶりだね…!気分はどう?」
「うん、すっかり元気だよ、ありがとう」
「みちる姉…」
みちるの瞳が、不安げなフゥ太の表情を映した。
ひょっこりとツナの後ろから顔を覗かせるフゥ太は、まだ一歩を、踏み出せないでいた。
「…フゥ太くん」
「ほらフゥ太。お前も千崎さんに会いたかったんだろう?」
ツナが、優しくフゥ太の背中を押した。
フゥ太は、ゆっくり、おずおずとみちるの前に進んだ。
後ろから、獄寺と山本・そしてリボーンが、それを見つめていた。
「みちる姉、僕…」
「フゥ太くん…」
『ごめんね――』
みちるの真っ直ぐな瞳とその言葉に、フゥ太は二の句が継げなくなってしまった。
「…どうして…?」
「…わたしは、フゥ太くんを、守れなかったよ」
「そんなのっ…だって僕は、…」
フゥ太はぎゅっと、拳を握り締めた。
「…だって僕は、みちる姉を殴った」
「殴ってないよ。あれはフゥ太くんのせいじゃない」
「……でも、僕の手で…」
「違うよ…」
みちるは、フゥ太の固く握られた拳を、自分の手で包んだ。
「もし、どうしてもフゥ太くんがそんな風に自分を責めるんだったら」
「……」
「…わたし、許すから」
どうしても、自分が許せないなら。
わたしが先に、フゥ太くんを許すから。
「だから、責めちゃだめだよ」
もしきみの中で、それが“やってない”ことにならないのなら
せめて、償いを受け取るから
貴方が貴方でいる限り
わたしは、何度でも向き合うから
「ありがとう、…大好きだよ」
みちるの手のあたたかさに、フゥ太は涙を零した。
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