いつから洗脳されていたかはわからない。
ずっとずっと、悪夢を見ているみたいなんだ。
だって、僕、大好きなみちる姉を殴っちゃった。
頭の中では、みちる姉の優しい表情が消えない。それなのに。
僕、みちる姉の笑顔を見ると、安心するんだ――
「来ないのならこちらから行くわよ」
ビアンキがそう声をかけると、茂みからフゥ太が顔を出した。
青白いその表情は、恐怖に怯えているようで。
「僕、骸さんについていく…」
「な…何言ってんだ…?」
ツナは疑問をそのまま口にした。
どうしてフゥ太がここにいるのか。どうしてそんなことを言うのか。
フゥ太はツナに背を向け、茂みの中に走り去った。
ツナが咄嗟に追いかけていくと、フゥ太は涙を零しながら訴えた。
「フゥ太!ちょっと待って!」
「ダメなんだ、だって僕…っ」
「え…?」
「お願いツナ兄、みちる姉は悪くないんだ…」
「なっ、ふ、フゥ太、みちる姉って…!?」
「だからっ…、みちる姉だけは、絶対に助けてあげてね…!」
おそらく、ここから先は本気で捕まるわけにはいかないと考えていたのだろう。
それからは、フゥ太は全力で走っていった。
「ど、どうしよう、まさか千崎さんまで…だなんて…」
ツナの心は、すっかり動揺に支配されてしまっていた。
雲雀にフゥ太、それにみちるまでだなんて。
おどおど、びくびくしながら歩き進むツナの目の前に現れたのは、黒曜中の制服を着た少年だった。
「助けに来てくれたんですね!」と、好意的な笑顔で接する彼に、ツナはすっかり気を許してしまっていた。
彼が本物の六道骸であるとも知らずに。
ツナがリボーンの話題を控えめに出すと、彼は必要以上に反応を示した。
ツナが直感的に恐怖を感じ、急いで踵を返すと、彼はまた後ろから声をかけた。
「そういえば、女の子がひとり紛れ込んでいましたね…」
「へっ?」
「どこの学校の生徒か知っていますか?確か、名前は…」
千崎みちる、 と、いうんですが…
それを聞いた瞬間、ツナは返事もせずに走り出した。
恐怖と不安の交錯する頭で、とにかく行かなくては、と思っていた。
雲雀は戦闘要員だが、みちるはそうはなりえない。
もう二度と、守れないことで彼女を泣かせたくないと、思った。
「やはりあの赤ん坊アルコバレーノ」
「そのようですね」
残された骸は柿本千種と話していた。
リボーンの正体への確信・そして何より気になっていたボンゴレ10代目との対面。
嬉しそうに笑いながら、最後にぽつりと付け足した。「そしてあの少女は…」
「…やはりボンゴレと繋がりがありますね」
「どうしますか?」
「千種も見たでしょう。千崎みちるは特殊な人間には違いない」
「…解剖しますか?」
「クフフ…それは冗談ですよ。さて…どうしましょうか…」
骸は、ツナにしろみちるにしろ、利用価値を見出したに過ぎなかった。
そう、思っていた。
「もし彼女がマフィアでも、手放す気はありませんよ」
…そう、思っていたのに。
わたしは信じたいって思う――、そう言ったときの純粋な表情が、
いつまでも消えない。
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