ランボが三歳だった時、わたしは十歳だった。ランボはとてもかわいい男の子で、周りの大人はこぞって彼を抱っこしたがったし、手を繋いで出かけたがった。幼いわたしは未知の動きをするランボに触れるのが怖かったし、ひょっとしたら人気者の彼への嫉妬心もあったのかもしれない。とにかくどういうわけか、わたしはあまり彼に近付く気にはなれなかった。だが、そんなわたしの思いなど知らないランボは、大人に構われるのに飽きたのか、よくわたしの近くに来てはわたしを構いたがった。無邪気な笑顔を歪ませる気にはなれず、わたしは仕方なく読書の手を止め、彼と遊んだものだ。
 五歳になったランボはどこで道を間違えたのか、異様にウザいガキんちょに成長し、更に驚くべきことに、殺し屋として日本に飛んでいた。いや、殺されるって。返り討ちだって。そう考えはするものの、わたしは何もできない子どもでしかなく、時折ボスにランボの生存確認をしていたのだけど、思いの外、ランボの日本での生活は楽しそうだった。
 十五歳になったランボは立派なイタリアーノに成長し、大人になったわたしは今、カウンターを隔てて立つ彼にデートに誘われている。聞いてもいないのによくしゃべる彼は今、ボンゴレ十代目のもとで仕事をしているらしい。

「若いのに立派だね。日本との往復で忙しいでしょうに、こんなコーヒースタンドでゆっくりしてていいの?」
「つれないですね。俺は貴女に会いたくてイタリアに来てるっていうのに……」
「仕事でしょ? たまにはボスのところにも顔出してあげてね」

 終始こんな調子のわたしに、ランボはむくれて頬を膨らませる。余裕のあるイタリア男を演じたいのだろうが、こういうところは年相応だと思う。

「デートがしたいなら、構ってくれる女の子のところに行きなよ」

 軽い気持ちでそう口に出すと、ランボはわたしに伸ばそうとした手を止め、固まった。

「俺はあなたに構いたいんですよ。知ってるでしょう」

 いつになく真剣な声音と視線に、わたしは彼を傷つけてしまったことを悟った。
 十歳のわたしは、小さな子どもに触れることを躊躇う臆病者だった。ランボはもう小さな子どもじゃない。変わっていないのはわたしだけだ。

「わたし、構うの苦手だよ」

 ランボは笑った。俺が構うから、貴女はそのままで良いんですと言った。その頬はまるで恋をしているみたいに、ほんのりと赤かった。

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