「ごめんねランボくん、放ったらかしでいなくなったりして…。迷子にならなかった?」
「オレっちは最強だから大丈夫だもんね!」
「京子とハルが見つけてくれるまでビービー泣いてたろうが、アホ牛」

リボーンが口を開くと、ランボくんが「リボーンのアホー!」と叫んだ。
手榴弾を出されては困る。10年バズーカも然りだ。みちるは慌ててランボに笑いかけた。

「そういえば!ランボくん、飴はどうしたの?」
「んー?ちゃんと持ってるもんね!ほらっ」

ランボはモジャモジャ頭の中から、赤と紫の飴を取り出した。
「こっちはみちるのだもんね!」と言うと、ランボはみちるに赤い飴を手渡した。

「わ!ありがとう!」
「そんなもん食えるかアホ牛!」

獄寺が、みちるの手からひょいと林檎飴を取り去った。

「ランボ、それどうしたんだ?」
「へへ、みちるに買ってもらったんだもんねー!」

いいだろー、とランボが言うと、山本は「おぉ、よかったな」と言ってランボの頭を撫でた。

「お前ら、いつの間に一緒に祭回ってたんだな」
「うん、ていうか大人ランボくんと」
「へぇ?あの牛柄シャツの兄さんか」
「そう…あ、これは大人ランボくんに買ってもらったんだよ」

獄寺が奪い取った林檎飴を指差して、みちるは嬉しそうに笑った。

「みちる、これ食べてたんだろ?」
「へ?うん」
「アホ牛の髪の中に入ってたんだろ!そんなもん食えるか!」
「もったいねーじゃん、オレにくれよ」
「や、やるかアホっ!」
「食べかけだよ!?」

山本の発言に、みちると獄寺は同時に顔を赤くした。
みちるは照れで、獄寺は怒りによってだ。

「別にいいよ、みちるの食べかけだろ」
「ななな何を言ってるのー!?」

アホかお前は!なんでだよー、ふたりがまた騒ぎ始めたのを見て、みちるはわたわたと慌てた。
「みちるちゃーん!」可愛らしい声が、神社の正面から聞こえてきた。京子とハルだった。

「ランボちゃんってば早いんですよー!」
「ほんとにみちるちゃんが大好きだね」

ランボはみちるの腕の中でご満悦だった。
「その顔むかつく」獄寺はランボの頭をぐりぐりと痛めつけた。

ハルはツナのほうへ向かい、京子はイーピンを腕に抱きリボーンと話している。
みちる・山本・獄寺は、ランボをいじって遊んでいる。
リボーンが「お前ら座れ、花火が上がるぞ」と言った。

「千崎!」
「わ、はいっ」
「座れよ、ここ」

獄寺がどっかと足を投げ出して座ると、親指で隣を差した。
みちるがおずおずとそこに座ると、山本が反対側に腰掛けた。

「野球バカ!お前はあっち行け!」
「ん?いいだろ?みちる」
「へ、うん、全然…」

「ほらなー」と、山本は獄寺に笑いかけて見せた。
なんとなく、山本の後ろに黒い影が垣間見え、獄寺は押し黙ってしまった。なんだこいつ!

「…ね、ふたりとも、怪我してない?」
「擦り傷くらいだぜ」
「あー、心配すんなよ」

みちるは思い出したように、浴衣と同じ柄の袋を取り出した。
獄寺と山本がキョトンとしていると、みちるは消毒液とガーゼを出して見せた。

「お前、何を持ち歩いてんのかと思ったら…」
「お財布とハンカチとティッシュと、手当てグッズ!」
「威張んなアホ」

獄寺がみちるの頭を肘で小突くと、みちるは小さく笑った。
海で山本に手当てを施してから、みちるはこのくらいは標準装備しなくては、と思っていた。
ガーゼに消毒液を含ませると、山本がひょいとみちるの手からガーゼを取り去った。

「いーよみちる、自分でやる」
「オレも」
「へ?」
「今は、花火見ようぜ」

みちるは、空っぽになった自分の手、そして獄寺と山本を交互に見つめた。
優しい瞳。優しい表情。

「みちる!花火、でっけーの上がるぞ」
「ちゃんと見てろよな、千崎」

優しい声。
…優しい、時間。

「キレイ…」
「だな」
「すげぇなっ」

みんなと一緒に過ごす時間は、こんなに優しいんだ。
自分の周りには、優しい人がたくさんいる。
みちるは、今までにないくらいの幸せを感じ、瞳の奥のほうが熱くなった。

こつんと、みちるの額が、膝を立てて座るみちる自身の膝に落とされた。

「みちる、どうした?」

山本が心配そうな声で話しかける。
みちるはなんでもない、と言って、しかし動かなかった。

「千崎」
「大丈夫…あのね、」

――幸せでも、涙って出るんだね

みちるの呟きを聞いて、獄寺は何も言葉が出てこなかった。
山本は、思わずみちるの背中を撫でた。


花火の残響が、しばらく周囲に響いていた。

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