「おい、野球バカ」
獄寺に呼ばれ、山本は「ん?」と溢し、振り向いた。
「あんまり千崎の前で不機嫌な顔してんじゃねぇぞ」
…自覚はしているつもりだった。
だが、いつだってみちるの気分を明るいほうへもっていくのは獄寺であることも、山本は気づきはじめていた。
他の人ならさほど気にならないことでも、みちるは気にしてしまう。
繊細で弱くて、優しいから。
だが、それが心地よい。山本は、みちるの性格を面倒だとは思わなかったし、それはツナや獄寺たちも同じだろう。
だからこそ、傷つけたくない。
だが、自分の気持ちは、果たしてそれだけなのか。
彼女だからこそ、傷つけたくないと。
みちるだからこそ、笑っていてほしいのではないだろうか。
「…あぁ。気をつける」
「…ふん」
「獄寺は、すげーよな」
ただ遊んでいるだけじゃない。きちんとみちるを見ている。
不安にさせない方法を知っていて、ごく自然に実行している。
獄寺は山本の言葉に「別に何もしてねぇよ」と答えて、行ってしまった。
“ライフセイバーのセンパイ”に肩を抱かれるみちるを見て、頭がカッと熱くなるのを感じた。
結局、センパイたちとのスイム勝負を、ツナと獄寺とオレで受けることになった。
勝負開始の前に、獄寺とみちるが話していた。
「千崎、あんな奴らに肩抱かれて照れてんじゃねぇよ」
「て!?照れてるわけないでしょ!」
「どうだか。顔赤くしやがって」
「わたしが、そ、そういうのダメだって知ってるでしょ…っ」
ごにょごにょと恥ずかしそうに言うみちるに、獄寺は「わかってら、バーカ」と言って乱暴に頭を撫でた。
なんか、楽しそうだ。
どうしてオレはみちるの前でだけ、こんなにぐずぐずしてんだ?
「獄寺くんの意地悪…!こっちが勝つから大丈夫だもん、でしょ?」
「ったりめーだ。あんな奴らに敗けねぇ!ね、10代目!」
いきなり話を振られたツナは、不安そうに微笑んだ。
「山本くん」
これまた突然、みちるに話掛けられておどろいた。
…オレ、最近、みちるのことばっかり考えてるのな。
「頑張ってね」
…当然だろ。
みちるに近づいて、さっきの獄寺みたいに、髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でた。
みちるはちょっとおどろいて、でも楽しそうに笑ってた。
心のモヤモヤ、いつの間にかなくなってた。
結局、スイム勝負の行方は、センパイ方が卑怯な手を使ったもんだから、獄寺と一緒に…なんというか、制裁。
ツナはきっちり勝ったし、おまけに溺れた女の子を助けてきた。
そんな感じで終わった。
不意にみちるのほうを見ると、笹川やハル以上におろおろしながらこっちを見ていた。アイツ、勝負の結果わかってたんじゃねぇのかな?
まぁでも、みちるらしいよなぁって思って、なんか笑える。
…なんでこんな、嬉しいんだろな、オレ?
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