story2



目が覚めるとそこは教室だった。
先程までの、とりあえず教室の体を取りましたと言ったようなおかしな空間ではない、本当の意味の僕の教室。三年一組の教室。

どうやら机に伏せて眠っていたらしい、上体を起こすと安心院なじみが未だに僕の目の前に立っていた。異様なこと。頭の悪いストーカー野郎のようだと思う。

「やあ、安心院さん。さっきぶりですね」

僅かに痛む首元を擦りながら、そう声をかける。けれど美少女の面をしたストーカー婆はにい、と歪な笑みで誤魔化すだけ。これでは全く埒があかない。

「なんの御用ですか、さっきも言いましたけど確かに僕は恋多き男だ。愛した女の子の数は星の数ほどもありますし、それで傷ついた娘がいたかもしれない。でもそれは貴方には関係のないことでしょう」

人外、自分以外の全てを等しく屑と思う人間でない何か。そんな女が僕の交友関係になんの口出しをするというのか、そもそも僕がこの女にあったのは過去1度だけの筈だ。


耐え兼ねた僕は教卓に腰掛ける彼女に近づく。
女が示したのは数枚の写真だった。

「君に捕まった頭の緩い馬鹿な女のことなんて聞いちゃいないさ。それにしても、ねえ人を殺したことなんてない、だって?ゲラゲラ、おかしな事を言うねこれを見てみなさい。君が良く行く繁華街の、ちょっとイケナイ路地裏を撮った写真だ。血にまみれて地に伏しているこの男、知っているよね」

握りつぶそうと手を出した先、脆く紙が塵となった。
紙屑すら残らず風に消えたそれは、事実を物体にするという安心院さんのスキル“事実偶像”によって作られたものなのだろう。彼女の手には数枚どころでなくなった量の写真があった。

「…殺してなんていませんよ、僕は」

渋々と口を開いた僕を見て、彼女は心底可笑しそうに笑う。僕が殺していないにしてもかなり危ないそれが表に出回るなんてぞっとするし、消すために裏へと回されてしまった人達にも申し訳ないと思う。

「そう、君が唆して勝手に死んでいった男だ」

嫌味ったらしく言った女を睨みつける。
死人に口無し、とはよく言ったものだが彼女に限って死んではくれないだろう。どうすればいいのか、これではまるで全知全能の神に脅されているようなものだ。
随分と人間臭い天罰だと考えているとそれならと女が切り出した。妥協案であるのか、酷い罰であるのか僕は目線を合わせるように顔をあげる。

「これを消してあげよう、なんなら事実ごと消してあげてもいい。そのかわり箱庭学園に編入してくれないかな」

どうかなと綺麗な顔で笑う女は、どうやら僕に選択肢をくれないらしい。彼女の手の中でふわふわと揺れた写真が消える。僕は思わず苦笑いを漏らし彼女は更に頬を弛ませる。そして契約成立と呟いたのだ。

契約だってさ
(これが物語の始まりである)


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a。


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