story1



「やあ、久しぶり」

突然現れた巫女服姿の白髪の女が美しい容姿をそのままにゆるりと唇を曲げ、僕のネクタイを掴みあげて言った。

きつく締まった首元に呼吸を止められぐずついた声が漏れる。それを見て女が笑った。

「こんなに締まってたら話せないって?ゲラゲラ、それもそうだね。けれどしかしだあんな事を仕出かしたのに平然と一般人として過ごしているなんて、そんなに図太い君ならば呼吸ぐらい余裕で出来るだろう?いやあ、それとも出来ないなんて言うのかなあねえ、×××君?」

僕は何も面白くないと言うのに女は笑う。頭の螺子が飛んでいるのかもしれない、そんな哀れな女は名を安心院なじみと言った。

あんな事とは何だ、そう言っても女はきっと誤魔化されてなんてくれやしない。
彼女は人外の中の人外、きっとこの世の全てを知っていて、そして勿論僕の全てをも知っているのだろう。×××という名前を知っていたのがそのいい例だ。僕の昔の名前、古い名前、誰も知らない芥屑のようなその名前。
ここで誤魔化すのは得策ではない。

「なんの御用ですか、安心院さん」

「理解の早い奴は嫌いじゃないぜ。そう、理解の早い奴ってのは今にも死にそうな顔をした君の事だ。頭は悪くないだろう?なら分かるよなお前が殺した人間と、愛した女のことだよ」

嫌味に笑う彼女はそれでも美しくて、それなら仕方ないのかな、なんて柄にもなくそんな事を思った。なんと言われようともそんな考えは間違いであるのだが。

しかし、間違いは正さなくてはならない。
僕は平凡な人間だ。あんな事、というのに心当たりがある程度には少なからずの罪を犯しているが、殺人なんてそんなそんな。

「愛した女は星の数ほどいますけど、人を殺したことなんて1度もありません。天に召します我らが父に誓ってもいいです、まあ僕は無神論者ですが」



嘘つきと君は笑うけれど
(そんなわけないじゃないかと僕は笑う)


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a。


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