陽の光の射さない陰気で陰鬱な俺達のアジトは、今日も人気がなく誰の声も或いは足音も、物音一つしない惨めな寂しさに溢れていた
「ぼーす、ただいま」
「おう、おかえり。その人は?」
腕に抱いたセンセをみて、ボスが小さく首を傾げる。冷たく、重く、それでいて硬くなっていく最中の貴女はまるで人形のようにも見えた。抱え上げたその眼下ではぷらんぷらんと、力をなくして垂れた左腕が揺れている
「嗚呼ちょっとしくじったねん。死んでしもたし、しゃあなし処分しよ思て」
「また “運命の相手だと思った” か?いい加減に懲りたらどうなんだ。処分するにも手間だろう」
「そうなんやけどさあ」
「はあ……」
眉間に皺を寄せ溜息を洩らすボスに、俺は笑う。苦労の絶えない人だ。主に俺たち部下のせいで
「大丈夫だいじょーぶ!センセは確かに死んでもたし、俺の運命の相手でもあらへんかったけど、ちゃーんと情報はがっぽりやって!な?」
「電話口で言ってたやつだな。並盛か」
「そー!データもまとめて送っといたから、後で見といてや」
「ふん……なら、その女の後片付けは頼まれてやるから、さっさと行ってこい」
「はーい。さっすがボス太っ腹やね。いつも通りに、いつもの様に!ってやつやろ分かっとるよお」
にっこり笑って、センセだった誰かは床に捨て置くことにした。これは骸だ。中身のない、果実も香らない、柔らかくもない、ただの死体
「ほんなら、行ってくるわ」
「気をつけてな」
綺麗なおべべに着替えて、お気に入りの香をつけて。眠れない夜を明けない朝に変えて。暗殺とは名ばかりの、売女のような生き方。生まれも育ちもお里の知れた俺にだけ宿る、最高の名誉
「待っててや、沢田綱吉」