スマホを構えながら、男の人があたしに聞く。
「名前は?」
「…坂口育未です」
「年はいくつ?」
「はたち」
「ほんとう?見えないね、もっと下かと思った。女子大生?」
「…うん」
「こういうことするの初めて?」
「はい…」
「緊張してる?」
「う、はい」
「そっか。大丈夫だよ、リラックスしてね」
男の人が嘘くさいくらいににっこり笑った。
それに、うん、と頷いて意識して肩の力を抜く。
「経験人数は何人?」
「あ、えっと…」
「正直に答えてね」
「…ひとり、だけ」
「彼氏かな?」
「うん」
「セックスは好き?」
「えっ」
「えっちなこと、好き?」
「………えと…嫌い、では、ない…です…」
スマホを録画モードにしたまま、男の人が一歩近づいてきた。
どきっとして、座っていたベッドの上でお尻を擦り合わせる。
「どうしてこんなことしようと思ったの?お金ほしいの?」
「ぁう…」
「育未ちゃん、お金もらったら何に使うの?鞄とか買いたい?」
「……いや、ていうかさあ…こんなことしようとしてるの蓮くんでしょ…」
「は ぐ み ち ゃ ん ?」
「うぐ」
男の人…もとい蓮くんがスマホの向こう側でうさんくさい笑顔をうかべている。
あたしはもうはたちじゃないのに、はたちと言わされてなんかちょっとエッチな質問に答えさせられている。
なにを思ったか、いきなり蓮くんが「AVごっこしたい」とか真顔オブ真顔で言うから。
なにかと思えば、大阪に一ヶ月短期赴任…出張?するから、おかずがほしいんだとか。
「絶対やだ」
「なんで」
「だって万が一でも人に見られる可能性のあるデータに残っちゃうのやだし、蓮くん、リベンジポルノって知らないの!?」
「知ってるよ。俺たち別れないからそこは別によくない?」
「よくないよ!億千万に一つの可能性で別れちゃったらどうするの!?」
「……はぐちゃん」
言いながら想像して悲しくなって泣きそうになっていると、蓮くんがぱああっと笑顔を浮かべて言った。
「ハメ撮りが俺のスマホにあることを、別れられない理由のひとつにすればいいんだよ」
「な、なるほど……………とはならないよ!?それリベンジポルノの正しい使い方のひとつじゃん!?」
「チッ」
あからさまな舌打ちをして、蓮くんががしがしと頭をかく。
「どうしてもだめ?育ちゃんと会えないのわりとまじできついんだけど」
「だ、って、データ…」
「分かった。絶対に、このスマホからほかの端末にデータを移さない。当然クラウドにも入れない。こっち戻ってきたら育ちゃんの目の前でこのデータを削除する。これなら?」
「……うぅ〜……」
もとより、大好きな蓮くんからのお願いで、蓮くんがめちゃくちゃ必死こいて土下座しそうな勢いなのもあって。
あたしはとうとううなずいてしまった。
★★★
蓮くんがスマホを構えるから、片手がふさがる。
そこで蓮くんはとんでもないことを要求してきた。
「じぶんで、さわって」
「えっ」
おろおろして蓮くんに助けてもらおうと思ってかわいこぶって見つめるけど、雄の欲望を満たしたぎらついた目でとろりと微笑まれてしまった。
や、やるしかない…。
「え、っと」
自分でしたことないから、何をどうしたらいいのか分からない。
おそるおそる、胸元に手を持って行って、おなさけ程度にあるおっぱいをもむ。
「……」
もむけど…別に気持ちよくないな…。
どうしよう…と思いながら無心でもむけど、やっぱり別に気持ちよくはない……。
「はぐちゃん、目、つぶってごらん」
「ん…?」
言われた通りに目を閉じる。
蓮くんが、ふふ、と笑った気配がした。
「おっぱいに、手、置いて」
「ん」
「俺がさわってると思って。普段俺どんなふうにさわってる?」
「え、と」
蓮くんのいつものさわりかたを頭の中に思い浮かべて、もじ、と膝を擦り合わせる。
いつも、蓮くんは優しく全体をもんだあと、乳首を…。
「あんっ」
「…ははっ、いい声」
目を閉じてると、蓮くんのその喋り方の微妙な変化に気づいてしまう。
「う、ぅん」
「……そろそろ、濡れてきた?」
おっぱいいじりながら、なんとなくあふれてきそうなのには、きづいてた。
でもそれは、自分でさわってるからと言うより…。
「さわる?」
蓮くんの声が、欲望をおさえつけようとして結局こらえきれずににじんでる、そんな声だから。
声が、すごくえっちい…。
「さわ、っていいの…?」
「いいよ、育ちゃんがやりたいようにして」
そわそわと、パンツに指を引っかける。
軽く撫でながら、いちばん敏感なところに指を置く。
「……、……」
あ、やっぱり…。
「…はぐちゃん?」
「……きもちよくない」
「え?」
「気持ちよくない、自分でさわっても、きもちよくない」
蓮くんの声で、とろとろに濡れてはいたんだけど。
たぶんこのままさわっていればどうにか1回くらいイけるかもしれないけど。
それ、違う。
「育ちゃん」
蓮くんのかすれた声が耳をくすぐる。
座っていたベッドにぺそりと横たわって、くにゃ、とカメラマンに足を開く。
「蓮くんが、さわってくれなきゃ、気持ちよくならない」
ぼすっ。と、蓮くんがあたしのそばの枕にスマホをぶん投げた。
「蓮く…」
「あのさあ!育ちゃん俺をどうしたいの!?マジ、マジでさあ!」
「どう、って」
「あ゛〜〜〜〜!」
覆いかぶさってきた蓮くんが、ギラギラに雄みのある目で睨みつけてくる。
きゅん、とおなかが音を立てた気がして、噛みつくようなキスを必死で受け止めた。
★★★
「あっあっ、あんっ、や、れんくん、も、ゆるして、ごめんなさい…っあ」
ぱんっぱんっぱんっぱんっ。
いつもだったら、蓮くんはしつこいくらいあたしのあそこをふやかしてから入ってくるんだけど、今日はそんな余裕もなかったみたいで、愛撫もそこそこに一気に奥まで入ってきた。
「あーっあっ、れ、れんく、ぁう、〜〜〜ッ!?」
「はっ、は……育ちゃん、きもちい…?」
ごり、と奥をこねられて、瞼のうらに星が散る。
後ろからごちゅごちゅ腰をぶつけられて、腰だけを高く上げた体勢で、枕に顔を突っ伏して泣きわめいている。
「ね、はぐちゃん、きもちい?」
腰をねっとりと回して、一番奥にディープキスするみたいにくにくにと押しつけられながら、きもちい?と聞かれる。
泣きながら、うん、うん、と頷くけど、蓮くんは満足してくれないみたいだ。
「言って、きもちいって。ね」
「きもちい、れんくぅん…あっ、きもちいい…」
振り向いて必死で蓮くんをとめようとして腰をてのひらで押し返しながら、きもちい、と言う。
目が合った蓮くんは、ぶるりと体を震わせてあたしの腰をつよく掴み直した。
「あっ、あぁ〜…だめ、だめ、蓮くん、だめなの…んぃっ」
「なんでだめなの?きもちいんだよね?じゃあいいよね?」
「あっ、あっ、あっ、あンっ」
たんったんっと規則的に腰がぶつかって、それに合わせて情けなく声を出すしかできない。
もう、蓮くんが掴んでいる腰がかろうじて持ち上がってて、残りの体はぜんぶシーツにぺしゃんとくっついてしまっている。
「あ、あ〜〜!ぁ、あ、や、もうっむりぃ…」
「ッは…すき、好きだ育ちゃん、AVなんか出ないで…」
意味不明だ。
AVごっこはじめたの、蓮くんなのに。
出ないよ…。
っていろいろ言いたいことあるんだけど、ぜんぶ言葉にならずに、口からは間抜けな喘ぎ声が出るだけ。
蓮くんの腰の動きはねっとりといたぶるようなものから、自分の射精のためみたいな激しいものに変わってく。
「あ、あ、あ」
ばちゅっばちゅっばちゅっ
抜けるギリギリまで腰を引いたと思ったら奥まで叩きつけてきたり、小刻みにピストンを繰り返したり。
これ、やばい、なんか、きちゃう。
「れ、れんく、だめ、だめなの、まって、あ!」
「っあぁ…でそう…」
「まって、まって、あ、あ〜〜〜ッ」
布団に押さえつけられてたから、勢いはなかったけど、じわ、とシーツが濡れる感触にサーッと血の気が引く。
「あ、あ、もら、漏らしちゃっ…た……ひん!」
「ハメ潮エッロ…あーくそ…ばか!」
「やああぁっあっあんっらめ、あっあーっ、〜〜〜〜〜!」
漏らしたあたしを見て蓮くんがばかと呟いて腰をものすごい勢いで突き込んできた。
怒られたショックと漏らしちゃったショックと、あまりの快感に、頭がかき混ぜられてもうなんにも考えられなくなる。
ばちゅっどちゅっごちゅがちゅっ
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ
「あ、あぁああぁぁあっ…ぁ、ん…」
「う…は…はー…めっちゃ出た…はは…」
★★★
蓮くんがシーツを片付けながら、あ、と言う。
あたしはすっかり拗ねて毛布にくるまって、ソファの上にいる。
「録画しっぱなしだったみたい…」
蓮くんが途中で布団の上にぶん投げたスマホを回収して、なにか操作する。
『あっあんっあっあっあっ』
ちんもく。
「やめてよ!!!」
「画面は全然映ってないけど声だけなのはちゃめちゃにエッロ…」
「止めて!最低!デリカシーゼロ!」
「ありがとう、いいオカズです…」
あたしの喘ぎ声が再生されてるスマホを頭上に掲げて、蓮くんが意味のわからないことを言ってる。
「消してよ、それ!」
「え、なんで!?約束が違いません!?やだ!!!」
結局蓮くんは動画を消してくれることなく大阪へ行き、さらにさみしいと泣きついてくるので応じたテレビ電話でオナニーを強要されたのだった…。
動画撮った意味…とは…。
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