春が来て教室が二階になった。学年が上がった、と言っても結局同じ校舎で同じような面子でそれほど変化はない。入学式に始業式、教科書配布、大掃除。春が落ち着かないのは毎年の事だ。決まりの行事で身体測定をすれば身長が去年の春より6センチ伸びた。去年の春にはあっさり母親の身長を抜いていた。決して低くはないその三桁の数字を眺め、ふとあの男はどのくらいだろうと考えた。容貌がふわふわと軽くまるで気体を含んでいるような出で立ちだから大きく見えるだけで、実は母親の時の様にあっさりとオレの方が大きくなってしまうのかも知れない。

「やあ、藤くん。身体測定どうだった?今日の午後は新入生のオリエンテーションだっけ。」
 昼休みに訪れた保健室は意外にも、いつもの凛と冷えた空気と養護教諭が一人居るだけだった。先にきっとアイツらが居て騒がしいことを予想していた。養護教諭の派出須は不気味な顔を柔らかく笑ませてお茶を煎れようかと決まりの言葉を吐く。部屋の隅の戸棚から最早オレ専用の湯飲みを取り出した。いつもなら長椅子に腰かけるか、ベッドに入るか、選択肢はどちらか。思い重箱をテーブルに置き、白衣の所為で薄く見える背中の前に立つ。前に横から見た時は、確か目線が肩より下だった。まだ派出須と出会ってからは一年経たないが伸びたらしい身長を実感した。目線が高くなり、わたあめのような髪が流れた隙間から白い項が見える。
「……お前って毛穴とかねーの。」
 凹凸のない白すぎる肌に思わず溢した。派出須の首がぐるんと振り返って白目勝ちな目玉をぱちぱちと瞬いた。
「まさか。あるよ。」
 派出須は湯飲みを2つ盆に載せて微笑んだ。近い距離に浮かぶその表情に温度がリアルに感じられて心臓が血液を勢いよく送り出した。ふわりと揺れる淡色の髪が白衣と一緒に靡いてテーブルに向かう。
「お弁当食べなきゃ、昼休みが終わるよ。」
 素っ気なく頷いて長椅子に座った。風呂敷を解いて二段になった重箱を広げる。純和風の弁当は茶色が目立っていた。
 派出須は目の前で茶を啜る。あの骨張った指は湯飲みで暖められるのだろう。知らない温度を予想して箸箱を開けた。
 まだ、知らなかった。








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