しっかりとした空気を持った子だと思った。背景に溶け込まず気はピンと張っている。この子は先ずは安心だと思った。病魔に漬け込まれる弱みが見えなかった。悩みが見えなかった。だからこそ、大切にしようと思った。どの生徒にも平等に、接し、振る舞うことが教師としてあるべき姿だ。

「なぁ、オレって変?」
 保健室に彼は決まって眠りに来る。いつもはベッドに直行しそのまま寝息を立てるのだが今日は次の保健だよりを書いていた僕に話掛けた。
「変って?」
「美作が女、女ってうっせーからさ。変なヤツだって言ったんだよ。…そしたら女に興味ねぇお前の方が変だって、言われた。」
 長椅子に腰掛けて彼が説明する事情を飲み込んだ。彼は溜め息を吐いて髪を掻く。
「アシタバに、オレが変かって聞いたらあいつまでオレが変わってるとか言うんだぜ。」
 背凭れに凭れてずるずると足を伸ばし彼は僕をちらりと見た。意見を求めてだろう。僕はペンを置いてうーんと唸り思案する。
「…藤くんは、変って言われるのが嫌かい?」
 僕を映していた綺麗な瞳が固まり、転がる。
「…否定されてるみたいで、あんまり…。」
 今日は天気がいい。窓から射し込む光がきらきらと彼の甘い色の髪を撫でている。
「僕は変わってる藤くんでも、素敵だと思うよ。」
 今日は焙じ茶にしようかな。彼は唇を一文字にして瞼を伏せた。納得が行っただろうか?僕はお茶の準備をした。急須に茶葉を入れて給湯ポットから湯を注ぐ。湯飲みを2つ出してそれらを盆に載せ、テーブルに運んだ。
「美作くんやアシタバくんだって、きっとそんな藤くんが好きだよ。」
 少し蒸らせば急須の中の茶葉が開いた。軽く揺すってから湯呑みに注ぐ。一つを彼の前に置いて僕は彼の隣に腰を下ろした。瞳は足元に向けられていて長い前髪が表情を隠している。
「………アンタは、」
 ぽつりと空気に馴染まない声だった。少し不安そうな声は湯呑みにも届かず僕の耳にだけはっきり届いた。
「うん。僕も藤くんが好きだよ。」
 そう答えれば彼は顔を上げて瞳はいつもみたいにまっすぐだった。少し違うのは焙じ茶を啜る口元が緩んでいたこと。
 僕は教師として恥ずかしい人間であってはいけないと思う。人として、有るべきは、誰に対しても平等でなくてはならない。彼が歳の割りに落ち着いて見えても、誰とも同じで傷付いたり悩んだりするのだ。例外はない。



(108)


…………………………………………
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -