自分のまわりにいた人間はみんな馬鹿だと思っていた。
親にも先生にも級友にも呆れていたし、理解が出来ずにいた。(なんでそんな簡単なことわかんねーの、とか、上辺だけの付き合いならやめたらいいのに、とか、きっと認められたかったから俺は大人ぶっていたんだ。)
中学3年生にもなって、俺は誰よりも子供だった。
じわじわと暑い日、カッターシャツが背中にへばりつく。保健室の窓から見える桜は完璧な若葉に姿を変え、蝉が喧しく鳴いている。もう夏だった。

受験生という肩書きを担ぎ、家の事情で名門校を受けるか否かを悩むほどではないが、珍しく俺の頭の片隅に残っている。お前はお前の人生を行けばいいと言う父の言葉の裏に隠された意味を理解してしまってからは、父の言葉が浅ましく欝陶しかった。
成績は良すぎるわけでもないが普通よりはできる方だった。いうならば学年ぎりぎり10位以内。保健室に入り浸りだして少々成績が落ちたけど俺は全くもって気にしてなかったし、あの男の雰囲気が好きでどうしてもサボり癖が抜けない。

「アンタ、さ」
そう、ふと疑問におもったことがある。教師なら誰もが一度は俺に言ったことをコイツは言ってこなかった。
「もうサボんなとか、受験生の自覚を持てとか、言わねーの」
不思議だった。俺はいいこになりたいわけじゃないから、自分の好き勝手にしてきた。成績が悪くなかったら怒られないことも知っていたし、ある程度のことができたら自由になれることを熟知していた。だからこそ今まで好き勝手してたくさんの人間を困らせたんだ。
「どうして?言ってほしいの?」
柔らかいテノールの声が心地いい。「んなわけねーだろ」と答えると、先生はくすくすと笑うだけだった。
「大人が思っているより子供は大人だから、ちゃんと自分でわかると思って敢えて僕は何もいわないよ。そもそも、そんなこと言ったら藤くんに嫌われちゃうし」
べつにお前に言われても嫌いになったりしねーよ。
「ふうん」
なんだかすっきりしない答えだった。もう興味はないと言うようにそっけなく返事をすると、補足をいうように先生が口を開く。
「でも、藤くんが保健室に来てくれなくなると寂しいから、言わないのが本当の理由かもしれないね」
心臓がおかしくなったように跳ねた。思わず振り返って先生の顔を凝視しても相変わらずにこにことしているだけで、なんの解決にもならない。言葉の意味を模索することに全神経を使うことなる。
それは生徒に保健室を利用されないことが寂しいということだろうか、それとも俺に、

上手く頭が回らないまま、胸の鼓動が蝉の声より喧しく鳴る。


勘違いなら


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