「先生、藤くんが…!」
驚いた。アシタバくんがいきなり保健室の扉を開けて顔を歪めて叫ぶものだから、何事かと思った。
「おい!アシタバ!お前も片方もてよ」
あとから美作くんの声がして慌てて廊下を覗き込むと、美作くんの背中におぶられぐったりと目を瞑っている藤くんが見えた。顔色が相当悪く、蒼白い。それに加えて頬が火照っているように見える。おぶったまま美作くんが藤くんをベッドまで運んでくれた。
「…どうかしたの、藤くん」
体温計を取り出しながらアシタバくんの顔を見ると困ったように「はい…」と答える。こんなに体調が悪いのに、どうして保健室にきてくれなかったんだろう。朝から顔を出してくれなかったのはこれが理由なのかな。
「藤くん、今朝からあんまり顔色よくなくて。」
「ああ、確かに。咳してたよな」
「うん。大丈夫?って聞いたら大丈夫だって言い張って」
「いつも何もなくても保健室に行く癖にこういう時だけ意地はるんだよなあ。こいつ」
「そう、ここまで連れてきてくれてありがとう。授業に戻っていいよ」
失礼しました、と保健室を出る二人を見届けて藤くんのところに戻り、体温計を取り出し耳に当てて直ぐにピピピと機械音がきこえた。
「39度すこし前…どうして我慢してたの」
冷却シートを取り出して貼ってやる。すると冷たさに反応したのか、藤くんの目が開いた。

「藤くん」
ぼーっと力無い目で見つめられると、すこし心がいたい。はやく頼ってくれたらよかったのに。
「………派出須?え、なんで」
キョロキョロとあたりを見渡して此処が保健室だと悟った藤くんは眉間に皺を寄せて大きくため息をついた。
「藤くん、朝から体調が悪かったんだって?」
ギクリ、と細い肩が跳ねる。
「…アシタバ、から聞いたんだろ」
「美作くんもね」
ちっ、と舌打ちをして頭を掻く
「大したことなかったんだよ」
「倒れちゃったのに?」
「あ、れは、」
ああ、うつ向いてしまった。
藤くんのベッドの前に膝をついて、彼の熱い手を握る
「何か理由があるの?」
ぎゅっと結ばれた口が一瞬何かをいいかけて、また閉ざされた。

「とにかく、お宅に電話をし」「いやだ!」
大きな声の否定に驚いて振り向くと、ハッとした表情を浮かべる藤くんと目が合う。不安とか絶望の類いの目の色だった。
今全てがつながった気がした。朝から彼はお宅に連絡が行くのを恐れて我慢してたんじゃないか、と。
「頼むから…やめてくれ…」
「だめだよ」
「なんで!」
「僕の義務だから」
そういうと藤くんは黙ってしまった。卑怯だと思う。義務だなんて言われたら、彼はどうしたらいいか分からないことぐらい分かっている。でもこのままではいけないのも事実。
「安心して、おやすみ」
不貞腐れた表情を浮かべる藤くんの髪を撫でて、電話をかけようと立ち上がると不安そうな声で呼びとめられた。
「あんたは、」
そこまで言って、藤くんは言葉を噛み殺す
「…なんでもない」
寝返りをうって布団にもぐってしまった藤くんを見て、再び電話をかけるために足をうごかす。
大丈夫だよ、なにも心配などいらない。

ぷるるるるる、とコール音が聞こえてしばらくして相手先の方の声が聞こえた。上品な声におもう。
お迎えにきて貰うように電話を切った。その間もその先も、藤くんは寝ふりをしていた。

不満

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