強い風が吹いた。 一面が薄紅色に染まる。 花弁の隙間、横断歩道の向こうに君の姿を見た気がして、ふと足を止めた。 『ずっと好きでした』 ありふれた言葉から始まって、 『ごめんね』 ありふれた言葉で終わった僕ら。 待ち合わせ場所は南口のコンビニ。 夕飯の買い出しをしたスーパー。 肩を並べて歩く路地裏。 少し狭いくらいが丁度いい2DKの部屋。 突然の雨にずぶ濡れになった夏の日。 大きな月を間抜け面で見上げた秋の日。 子供みたいに雪を蹴散らしながら歩いた冬の日。 この街は君の欠片でいっぱいで、何度季節が巡ってもきっと忘れられないだろう。 それでもこの街に住み続ける理由は、そんなセンチな自分が好きだからかもしれない。 君が去って三度目の桜の季節。 夜の公園。満開の桜。 こっそり繋いだ手。 外で手を繋いだのは、あれが最初で最後。 一番好きで一番悲しくなる思い出のあるこの季節だからこそ、君の影なんか見てしまったんだな。 少し笑う。 点滅する信号。 赤に変わる。 通り過ぎる車が桜の花弁を巻き上げて、君の影を消した。 背を向けて、一歩踏み出す。 そろそろ僕も行かなくちゃ。 一度だけ振り向く。 ありふれた言葉で『 』 |