イラスト1
ありふれた言葉

強い風が吹いた。
一面が薄紅色に染まる。
花弁の隙間、横断歩道の向こうに君の姿を見た気がして、ふと足を止めた。

『ずっと好きでした』
ありふれた言葉から始まって、
『ごめんね』
ありふれた言葉で終わった僕ら。

待ち合わせ場所は南口のコンビニ。
夕飯の買い出しをしたスーパー。
肩を並べて歩く路地裏。
少し狭いくらいが丁度いい2DKの部屋。

突然の雨にずぶ濡れになった夏の日。
大きな月を間抜け面で見上げた秋の日。
子供みたいに雪を蹴散らしながら歩いた冬の日。

この街は君の欠片でいっぱいで、何度季節が巡ってもきっと忘れられないだろう。
それでもこの街に住み続ける理由は、そんなセンチな自分が好きだからかもしれない。

君が去って三度目の桜の季節。

夜の公園。満開の桜。
こっそり繋いだ手。

外で手を繋いだのは、あれが最初で最後。

一番好きで一番悲しくなる思い出のあるこの季節だからこそ、君の影なんか見てしまったんだな。

少し笑う。
点滅する信号。
赤に変わる。
通り過ぎる車が桜の花弁を巻き上げて、君の影を消した。
背を向けて、一歩踏み出す。

そろそろ僕も行かなくちゃ。

一度だけ振り向く。

ありふれた言葉で『  』

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