イラスト1
また明日

修正するなんて最早手遅れな世界。
今更、何を改めたって、どうしようもないだろうと誰もが思っている。

それでも、法律は改正された。

介護や家事支援などで、家庭用にも人型のロボットが普及し始めて二十年余り。当然の事ながら、それに付随する犯罪や非人道的行為も増え、深刻な社会問題となっていった。
中でも深刻なのは、ロボットを恋愛対象する若者、実子よりも介護ロボットと言う老人の増加による少子化や相続問題。
このままだと、この国の家族と言う概念が崩壊し、近い将来、国民の大半を移民が占めるだろうと推計をどこぞの偉い学者様だかが発表した事で、多くの反発を無視し無理矢理にでも政府は、法改正へとこじつけたのだそうだ。

四月より、人に似せた所謂ドールタイプロボットの製造を禁止。九月より、販売を禁止。そして、この先十年を目処に全てのドールタイプの回収、廃棄を目指していくらしい。

製造、販売の禁止ももちろん、問題であるが、僕たち一般人にとっては、最後の回収、破棄と言うのが最も衝撃的であり受け入れ難い内容であった。

ロボットと言えど、見た目は人に酷似していて、富裕層が所持する物には、感情を露わにできる物もあるらしい。

僕の家に居るのは、表情筋なんかが動く様な代物じゃないし、気の利いた事も言えないけど、きっとどこかに感情があるんだろうと思ってしまう。

それなりの時間を共に過ごせば、愛着だって沸く。それが恋愛感情じゃなくとも、ロボットだと割り切る者より、家族同然だと思っている者の方が多いに違いない。

かく言う僕も、彼を愛していた。

家族としてではない。
今、最も問題視されている、ロボットに恋をしている者の一人なのだ。

彼は、とある事から引きこもり気味になった僕の世話をするのに両親が少々無理をして買ってくれた物だった。
友達のいない僕の友達になってくれる様に、当時の僕より少し年上の少年タイプのドールだった。

見た目は正に良くできたお人形で、綺麗な顔でいつも薄く微笑んでいる。知能はあまり高性能ではないのか、話が噛み合わないことも少なくない。
最初は煩わしく感じたこともあった。
それでも、どんなに酷いことを言ったり、したりしても、彼は僕のそばに居てくれた。

教師や親でさえ、見切りをつけた僕の傍に彼は居てくれた。

いつの間にか、見た目は僕の方がずっとお兄さんになってしまったけれど、彼はいつも僕を温かく見守ってくれた。

愛するなと言う方が無理なんだ。

僕には彼しかいないのに、この上、僕から彼まで奪おうと言うのか。
ペットは捨てちゃいけない。人は殺しちゃいけない。そんな事が当たり前の世の中なのに、ロボットならいいのだろうか。
法律一つで、簡単に廃棄されてもいいのだろうか。

と、憤ってみたところで、抗う術を僕は知らない。

反対派の人達に仲間入りして、抗議活動をすればいいのだろうか。
または、彼を連れてこの国を出ればいいのだろうか。
方法はいくらでもあるかも知れない。

だけど、そんなことに時間を割くくらいなら、最後の一分一秒まで彼と一緒に居たいと言い訳をして、僕は日々を過ごす。

また明日。
まだ明日がある。

公園のベンチに座る。
彼の手を握る。
たまに不安で胸がドキドキする。
その度に「心拍数が上がっています。大丈夫ですか」と彼が言う。

僕は「君が好きだからだよ」と答える。

彼が小さく笑った様に思えた。
薄笑みの顔は動かない。
勘違いかも知れない。
でも、そう思わせて欲しい。

また明日。
まだ明日も僕は彼と居たいだけ。

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