御史台長官室


少しだけ意識を手離した気がする。

ハタ、と瞳を開けると静まり返る室内が夕暮れの闇に包まれていた。
どうやら数刻寝てしまったようだ。

「え、?」

隣に誰かいる。
頸を捻ると皇毅が一緒になって寝そべっていた。

「え、!?」

そして何だか寒いと思ったら、なんと素肌が露になっていた。

「こ、皇毅様!」

眸を閉じて寝入っている皇毅を揺すると、気だるそうに眉を潜める。
ゆったりと眸を開けて一息吐いた。

「お前のお陰で仮眠がとれた……」

「お疲れだったのですね、よかった」

じゃなくて

「あの皇毅様、私………衣を着ていないのですが」

「天井を見てみろ」

コロンと仰臥位に転がされ暗がりに仮眠室の天井が視界にはいると、そこには後宮の屏風絵となるはずだった画が経費削減とでも云いたげに貼り付けられていた。


−−−天に昇る為に必要な羽衣を無くしてしまった天女

−−−天女を我がものにしようと羽衣を隠した男


お伽話の一節を画いた天井画


「素敵な絵ですよね、もっと人目のつく場所に飾られたらいいのに」

「譚の内容を考えてみろ、説は様々あれど天女は結局男を捨て天に帰る。後宮に置くべきものではない」

「そうなのですか……」

でも、この画が何か?とパチクリ瞳を瞬かせていると膨らむ胸に手が滑り込んできた。

「嫌がらせをしてでも傍におきたいと云うことだ」

耳許で囁かれる低い声に震えるとそのまま耳朶を噛まれた。

「あ、………ダメ、」

甘え口調の拒絶に皇毅が乗り上がってくる。

ここで唇を奪われたら後はもう堕ちてゆくしかない。拒絶すべきなのかもしれないが、なし崩しにされて甘えたい気持ちも沸き上がる。

しかし皇毅の背に手を回そうした所で漸く思い出した。

御史台長官室


「い、いけません!此処はどこですか」

「さあな」

「さあな、じゃないでしょう!……お疲れならば身体をお揉みして差し上げます……きっと、血虚、血虚がありますから治します」

腕の中でジタバタもがいている玉蓮を上から眺めていたが、いつまでたっても黙りそうに無いので鬱血した手首に口付けた。





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