御史台長官室
「皇毅様のお元気な姿を拝見出来て安心致しました……ではコッソリ帰りますね」
「その罪人姿で帰るつもりか……凰晄が寝込むぞ」
厭味を浴びせながら慎重に縄を解いてくれるが、容赦なく締め上げられた玉蓮の手首は鬱血して紫色に変わっていた。
邸の者達にどう言い訳しようかと考えながら手首を眺めていると不意の寒気。
見上げれば皇毅は既に背を向け扉へ向かっている。
一瞬、眸を捉えて直感した。
「待ってください、悪いのは勝手に入った私です!」
扉から出ていく前に走り寄り背にすがり付いて渾身の力で止めた。
「お前を縛ったのはあの男だったな」
やっぱり
「違います……!行かないでください、一人にしないで」
皇毅は無言のまま、もう一度紫色になった手首を掴んで確認する。
「大丈夫です……傷にはなってはおりませんから」
「……………」
「………皇毅様、……ごめんなさい」
忙しい彼に、こんな思いをさせてしまった。
事の重大さが身に染みてポロリ、と大きな瞳から涙が落ちる。
泣いているとガサリと抽斗から一通の文が差し出された。
いきなり渡され反射的に受け取ってしまったが、これは一体何だろうと濡れた瞳を瞬かせる。
「これ………何ですか?まさか……り、りえ、離縁状とかですか」
「そんなわけあるか」
震える手で文を開くと皇毅からの甘い恋詩が綴られていた。
「今日届けるつもりだった文だ」
早合点から肝を潰して目眩を起こす玉蓮を抱きかかえ仮眠室に寝かす。
「少し此処で休んでいろ」
「ありがとうございます……あ、そういえば……お弁当は」
「お前のついでに持ってきた」
「お弁当がついでですか」
素っ気ない、いつものやり取りが何だか嬉しくて皇毅の手を握りながら玉蓮は静かに瞳を閉じた。
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