葵皇毅の賃仕事


オホホホ、と奥方の高笑いが室に響き渡った。

「面白い子!気に入ったわ」

「畏れ入ります」

「お礼に美味しいお酒を飲ませてあげるわね、待ってなさいな」

静かに椅子で中庭を眺める皇毅に背を向け上機嫌で奥方が室を出ると、皇毅はすぐに立ち上がり室内を調べだした。
急いで倉の鍵を探さなければならない。

金縁の厨子や櫃の中、寝台裏を探り、最後に絵画の裏へ腕を伸ばした時、指先に冷えた金属の感触が伝わる。

(これか……)

見つけたはいいがさて、これからどうしたものかと皇毅は策を巡らせた。
このまま鍵を奪って遁走しても騒ぎを起こし警戒を強められるだけ。

そして、目の前の贋作らしき絵画だけでは証拠不十分。なんとしても鍵を使って倉に入らねばならない。

「お待たせぇ、美味しいお酒を飲みましょうね」

もう戻ったのかと皇毅は椅子の上で組んだ足を戻し、出ていった時と変わらぬ素振りで中庭を眺めた。

至極機嫌の良さそうな奥方は卓子に酒杯を並べとくとくと酒を注ぐと再び手招きで皇毅を呼び寄せた。

「まだ午だけど、楽しみましょう?」

「…………」

皇毅は手渡された酒杯を凝視する。
ここは空気を壊さぬよう一気に酒杯を煽るしかないのだが、

(……この酒、何が混ざぜられているんだ)

未熟な雑念が起こり明らかに怪しい酒を煽る勇気が出ない。

奥方は自分の酒杯を先に飲み干して皇毅に身をしなだり寄せた。

「なぁに、お前お酒飲んだことないの?もしかして………、アレも初めて?」

小馬鹿にした口調だがとても嬉しそうに唇を弓のように上げていた。

「お酒に誘淫剤を混ぜてあげたのに、期待できるのかしら?」

「…………」

何だ、そんなものかと拍子抜けして肩を落としたところでその肩に奥方の頭がこてんと落ちてきた。

奥方は皇毅が酒杯に落とした眠剤に当たり意識を失っていた。
しなだる身体をズルリと卓子に避け贋作画の裏に隠された鍵を取り出し室を後にする。





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