葵皇毅の賃仕事


家人が倉から出ていくと皇毅は与えられた作業机案に向かい、一つ溜め息を吐く。

哀愁漂わせ、横に並べられた画材を眺めるが、何度見ても高価なものばかりだ。
思わず純度の高い藍色の珍しさに哀愁も忘れ目を見張る。

そこでようやく頭が回転しだした。

確かに春画は一定の高値で売れるだろう。
しかし春画だけでこのような高価な画材が揃うのだろうか。

(なにか妙だな……)

皇毅が訝しげに腕を組んだところで再び倉の扉が開いた。

「あら〜、若い画員が来たと聞いたのだけれど貴方よね?」

甲高い女の声に視線だけ向けると、年増だが艶やかに着飾りやけに色気を押し出す女が皇毅の傍に寄ってきた。

周りにいる絵師達は一度振り向くが直ぐにまた作業に戻ってしまう。

「若い画員が描く春画って素敵。主人もたまにはいい人雇ってくれるわねぇ〜」

やけに舌ったらずな喋り方だが、どうやらこの家の奥方だと言葉の端で知れた。

「売れるものが描けるか分かりませんが」

「そんなもの、売れなきゃクビに決まっているじゃない」

奥方は突然機嫌の悪そうな低い声色になるが、皇毅の姿を上から下まで舐めるように眺めると唇をニィ、と吊り上げた。

「なんだか……若いし、可愛い子ねぇ。口も固そうだし、ちょっとだけ気に入っちゃった。春画作業でなく、私の代筆やりなさい。字も見たけれど綺麗な字だったし代筆にぴったり」

「………は、代筆?」

皇毅が眉を上げると奥方は唇をわざとらしく前につきだし面白そうにその表情を眺めている。

「そうよ、私は字が書けないから代筆で文をだすの。賃金は春画より弾んであげるからよろしくね?仕事場は……私の室…、楽しそうでしょう?」

作業場の男達が皇毅に視線を投げるのが分かった。

「ご主人にこの倉以外は出歩くなと申しつかっております」

「そうね。他の倉には入らないでよ?まぁ入れないだろうけどねぇ……私の室は平気だからいらっしゃい?ケチな主人より沢山賃金あげる」


−−−不相応に高価な画材


−−−入れない倉


−−−火遊び欲情まる出しの夫人



また妙な所に賃仕事に来てしまったと皇毅は暫し瞑目する。





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