妻風邪をひく


もじもじと抵抗するときつく抱かれ、反対に自ら身体を委ねると拘束は緩やかになる。

見上げると、眸を閉じて機嫌がよさそうな皇毅の表情が映った。その姿に胸をなで下ろし安堵する。

「皇毅様のお帰りに風邪などひいてしまい……ごめんなさい」

胸元から声をかけてみると、頭を優しく撫でられた。

「ならば私が治してやる。医官ではないが風邪くらいなんとかなろう」

玉蓮はにっこりと微笑んだ。

「結構です」

「…………」

振り出しに戻った……。

たまにしか発揮しない貴重なこの優しさを、二度も打ち砕いた仰天妻。

「何故、お前などに……入れ込んでいるのだろうか。我ながら滑稽だ」

「それは、私が欲擒姑縦だからではないでしょうか」

「いよいよ生意気な」

言うと皇毅は小棚に手を伸ばし、鎮座していた褐色の瓶の中に収まる液体を自ら掌に伸ばした。

「医女ならばこれが何か当ててみるがいい」

挑戦的な言葉に思わず頷いたところでしまったと思った。まんまと乗せられた。

「これは首もとに塗ると効果的なものだ」

「まぁ、なにかしら?」

瞳をパチパチと瞬かせ、乗せられついでに好奇心もむくむくと湧いてくる。
すると袂を開ける名目が出来た皇毅の大きな手がスルリ、と胸元へと延びてきた。

「あ、あの………」

行儀の悪い手を止めようとするが、侵入した掌は柔らかな膨らみと、その頂きにツンと立ち上がる突起の上に陣取り撫で始めていた。

ここで躍起になれば上にのし掛かられ、皇毅の思う壺だと身を持って知る玉蓮は、取りあえずその手を好きにさせる。

胸元から鎖骨へと上がってきて、頚部をゆっくりと撫でられた。
すると、なんだか澄んだ香りがしてきて詰まった鼻が不思議と楽になってきた。

この感覚に玉蓮は即座に閃いた。

「わかった、薄荷です!」

「………早いな」

流石私の医女だと適当な賞賛と共に皇毅が再び抱きついてきた。

「え、……こ、これだけですか?葵医官様の治療って薄荷油を首に塗ってくれるだけ?まぁ…藪医官でしたの」

葵医官が怒り出す前にふふふ、と声をたてて笑い抱きついた。

「嘘です。もう治りました」

「そうだろう」


−−−−−−チュッ、


耳許でわざと大きな音を立て口づけられた。
熱い唇とさらに熱を帯びた舌の感触が直に伝わり、瞬時に身体が痺れる。

薄荷油ではなく皇毅が触ってくれたから治った。
そんな気がした。





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