長官の浮気尋問
「やっぱり言います、……朝まではお許しください……!」
震える声で訴える玉蓮の頬をゆるゆると撫で、「それで、?」と促す。
「い、以前……後宮で医女官を、させて……、あ、あん、揺すらないで!」
余りの愉しい尋問に皇毅は声を殺して笑いだす。
最初は憤りを隠せなかったが後宮では日常茶飯の事であったし、何より玉蓮を信じられる余裕が出来ていた。
しかし、体罰且、尋問はしておかねば。
「少しくらい動いていても口は利けるだろう」
本当に悪趣味な尋問官に絶句するが、黙っていると律動が激しくなりそうな気がして懸命に説明を開始する。
「こ、後宮に仕官していた頃、お怪我をされた武官様と道すがらお会いして、……お怪我の手当てをさせて頂いたのです……その方からお礼にと頂きました」
(お礼に……この高価な簪を…?)
何処の兵だか知らないが、特権階級でもない武官の禄から概算すると、
給金三ヶ月分の簪
宴席で羽振りの良い金持ちからポーン、と放られたとは訳が違う贈り物だった。
「私、頂けませんと申し上げたのですが……『賄賂ではない、怖いならそのまま捨ててくれて構わない』と言われてそのまま…」
「何故、捨てずに持っていた」
「…………」
玉蓮は話を続けながら、あの時の気持ちを思い出す。
後宮に咲き誇る美しい女官達に気後れしながら、艶麗に着飾って欲しいと彼女達へ届く男性からの熱烈な贈り物に対し、「それ賄賂じゃないですか?監査が入っても大丈夫ですか」と絡み「この、男嫌いの風紀医女!」と厄介がられていた。
別に贈り物を妬んだつもりは無かったし、本気で監査で疑いを掛けられないかを心配しているつもりだった。
なのに、初めて自分にも簪が贈られた時、余りの珍事件に思考が止まり贈り物を押し返せなかった。
その後も何度か彼は訪ねて来てくれた。
しかし会えば簪を返さなければならない。「こんな高価なもの迷惑なのでお返しします」と言わねばならない。
だから会えなかった。
返さなければならない簪を内院にある自分の引きだし奥底にしまい込み、人がいない夜半たまに眺めていた。
けれど、一度も髪に飾りはしなかった。
もし飾ったら、きっと−−−
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