妻風邪をひく
ふるふる、と震える身体に覆い被さり目の前で膨らんでいる形のよい丸みに両手を這わせた。
「……い、いけませ……ん、んっ」
下肢でしっかり腰を挟み込み逃げられないように体勢を整え、皇毅はそのまま執拗に玉蓮の胸を撫で回す。
上から下そして内から外へ、指で乳首を押すとツンと立ち上がっていた。
可愛い。今すぐ舌でもっと喜ばせてやりたい。
「皇毅様……!だめ、見ないでくださ……」
それほど不本意ならばこの手首を止めるために握りしめてくる筈なのに、玉蓮の両手は未だ自分の顔を隠している。
『顔を見ないでください』
決まりだ。
皇毅は妻の訴えを踏みにじるように手首を掴んで強引に両手を開 いた。二人の視線が合わさる。
「……………ぐす、」
「……………」
皇毅は眦をきつく細めて観察するがそこには不機嫌そうに歪んでいるがいつもの妻の顔。
顔を見られたくないからには、そこに何かあると踏んでいた皇毅も流石に首を傾げざるを得ない。
「結局のところ……なんなんだ」
嘘を暴く御史台の精鋭も妻の秘密は分からなかった。
玉蓮は仕方なく、本当に仕方なく小声を洩らす。
「洟をかみすぎて、鼻先が赤く腫れてしまったんです。だから……見ないでください」
「…………」
意味が分からずに呆然とする皇毅を残して、そのまま掛け布の中に逃げこんでしまった。
巨大な繭のように包まる玉蓮は 恥ずかしいのかコロコロと左右に揺れている。
鐘三つほどの気まずい沈黙が降りた後、ようやく皇毅が口を開いた。
「鼻が、赤い…だと」
正確には鼻が赤い"だけ"!?
馬鹿みたいに言葉を繰り返しただけだったが全ての合点は一応あっている。怖いことに。
「皇毅様は……この世で最上に美しい女人達を横目にお仕事なさっております。私など十人並みの平凡な女の顔など面白くもないでしょうが、だからこそ、これ以上みっともない顔はお見せしたくないんです……私だって、皇毅様に美しいと…思って頂きたいんです……」
泣くと余計鼻が詰まるのか、ぐす、と洟をすする玉蓮の切ない心を前に皇毅はムカっ腹たてずにはいられな かった。
美しい女人達を横目ってなんだ。横目とは見ていないようで見ている最悪の視線ではないか。
浮気に対して異常に敏感な妻だが、してなどいないのに毎度この有様。
ここは健気な妻の乙女心に感動するところだったのかもしれない。
『鼻が赤くてもお前は美しい。愛している』という寛大な言葉で締めくくる場面なのかもしれない。
そして一件落着、おやすみなさい。
なわけあるか。
嘗てはもう二度と使うこともないだろうと思っていた方面の思考を存分巡らせ皇毅は不自然なくらい優しげに愛する妻を気遣ってみせた。
「鼻が詰まってはさぞ苦しいだろう」
「鼻水が多量に出るのは肺に寒湿の邪が侵入したためで、嗅覚が低下 し、くしゃみが出ます。余分な水分である伏飲が停滞している状態でむくみ……むぐ、」
皇毅は玉蓮の口を掌で塞いだ。
「それは大変だな。今夜は特別に私が治療してやる」
「こうき、さまが?」
もがもが、と不信がっている玉蓮を残して皇毅は寝台から降りた。
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