牡丹のお嬢様


「お嬢様、詩経はお好きですか?今から皇毅様がお好きな詩を詠みますので一緒にいかがですか?」

玉蓮の言葉にお嬢様は首を傾げて髪飾りに手を当てる。

「女は無学が徳と習いました。女論語は諳んじますが、詩経など恐れ多い。奥様のお考えは違うのですか」

「そうですね……無学であるからこそ開ける道と、無学では開けない道があると思います。私のご尊敬する方は、開けないはずの道を自ら開いた方ですので、私も徳を積むと共に教養を磨く事に努めたい。そう思っております」


−−−−−−−紅秀麗

−−−−−−−旺飛燕



お嬢様が彼女達の存在を知っているかは分からない。
しかし、紅秀麗は皇毅が直々に引き入れた直属の部下。そして、旺飛燕は最愛と謳われた佳人。

皇毅が傍においた二人は女の美徳など鼻で笑うのかもしれない。

「お言葉ですが、私は無学のまま女の美徳に努めたいと思いますわ」

凛と意見される。彼女は彼女の信じる道があるのだ。
それは玉蓮にも、誰にも否定できない。

「ふふ、それもいいかもしれないわね。では、お嬢様は何をするのがお好きなのかしら?」

「私はお香を調合する事が好きですの。奥様は……本当にお優しい方なのですので、私の実家から手荒れによい軟膏を取り寄せて香りを調合致しますわ。匂い袋と一緒に、是非お使い下さい」


ついに動いた。玉蓮はそう感じ取った。
麝香の謎。その答えがもうじき出る。


少々お時間頂きますと、膝を折って礼をとるとお嬢様はそのまま踵を返した。

結局のところ、侍女見習いであるにも関わらず侍女仕事は一切せずに牡丹のお嬢様は与えられた自室で香の調合に勤しんでいるご様子だった。
このまま皇毅の帰らぬまま、見初められもせぬまま七日間が過ぎてしまえばいいと侍女達も最早相手にはしていなかった。



何事も起こらぬまま数日−−−−−−−


玉蓮が今日も帰りそうにない皇毅へ届けるお弁当を拵えていると厨房場に突然籠っていたお嬢様が現れた。

途端に侍女が睨み付ける。

「何よ、庭掃除もやらない子に菜は教えないわよ」

皇毅のお弁当を詰めながら意地の悪い言葉を投げつけた。

「奥様にお渡しする軟膏が出来ましたの。お時間が出来ましたら私の室までお願いします」

「ちょっと何で姫様がお出ましするの!?」

「いいのよ、皇毅様のお食事が出来たら行きますので室で待っていて下さいね」

その言葉にお嬢様は一礼して厨房場を後にする。
平然としている玉蓮の元に悔しそうな顔の侍女達が集まってきた。

「姫様は行く必要などありません。私達が行って受け取って参ります」

「いいえ、」

玉蓮は頚を振る。
皇毅はまだ裏があると言っていた。玉蓮を害して追い出し、代わりに皇毅に見初められ葵家の正室にのし上がる。
それだけでないとしたら、一体何が隠されているのか。

皇毅が邸に引き入れたのだから何かある。
それが何なのか、玉蓮はきっと知らねばならないのだ。

侍女達について来ないよう言い聞かせ、一人で牡丹のお嬢様が待つ室へと向かった。







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