九連宝燈



玉蓮は瞳を伏せて、ゆっくりと手を開いた。

「…………」

しかし、その手の中には、何も入ってはいなかった。

陵容はもとより、完全に諦めていた皇毅と凰晄も何もないことに驚愕する。

(牌を掴み損なっていたか!)

「イカサマだと言い掛かりつけるとは大錯和ですな叔母上」

すかさず皇毅が嫌味たっぷりの口調で責め立てる。
大錯和により陵容の点棒は没収、勝ったも同然だった。

すると疑われ俯いていた玉蓮が立ち上がった。

「お待ちくださいませ皇毅様!私が午にはつけていなかった指輪をはめていた事が誤解を引き起こしたのでしょう。指輪は皇毅様に預け致します。誤解を引き起こす物を持ち込み申し訳ございませんでした……せっかくなので、麻雀を続けましょう」

指輪を差し出し微笑む玉蓮だが、皇毅は納得しなかった。

「錯和を流すというのか。勝ったも同然なのだぞ」

「皇毅様、九連宝燈……出来なくてごめんなさい」

皇毅と凰晄は再び驚愕の縁に追いやられる。


−−−−何、バラしてんだ!!


これではもう、牌を投げても九連宝燈は作れない。
これ以上何もしなくていいと、玉蓮からの切ない視線でそう感じとった。

(まぁ、陵容叔母上に認めて頂かずとも夫婦に変わりはないがな)

皇毅はそんな玉蓮の手を軽く握ってやった。


釣り灯籠の灯が風にゆらゆらと揺れる中、卓子に向かう四人は再び牌をかき混ぜ出す。
イカサマから解放されたからか、今度は玉蓮も楽しそうに牌を混ぜていた。


「今は私が親ですよね?ん〜……あら、?皇毅様これちょっと見てください」


暗がりに配牌をちょこちょこ並べていた玉蓮が皇毅の袖を引っ張った。
引っ張られるまま皇毅が玉蓮の配牌を覗き見る。

「……他人の手持ちを覗く者がありますか」

流石に陵容が指摘するが、皇毅は覗いたまま固まっている。


「皇毅殿」

「上がっている……」


ぽつり、と呟いた言葉に全員固まり玉蓮は瞳をはたはたと瞬かせた。

皇毅は玉蓮の配牌を倒した。

「配牌で上がっている……これは、一体どういうことだ」


あ、っと玉蓮は手を叩いた。


「これはまさか、九連宝燈と並ぶ幻の役満、幸運の『天和』ではありませんか?」



『天和』



「はぁーーー、!?」


そんな訳あるかと、玉蓮以外全員が仰け反った。

しかし、何度見ても配牌で上がっている。

「嘘だ……何が幸運の天和だ。馬鹿言うな」

余りの仰天役満に狼狽する皇毅と固まったままの凰晄を尻目に、陵容は椅子から漫然と立ち上がり玉蓮の前で膝をついて礼をとった。

「玉蓮娘子、全てにおいて感服致しました。見事な才覚、葵家当主の妻君に相応しいとお見受けし恐悦に存じます」

「いえいえ、あの……とっても幸運な役満でした」

一緒になって礼をとる玉蓮の手をしかと握る。

「皇毅殿は蝗害の調査に屡々紅州を訪れます。調査の拠点に我が邸を使って頂いておりますので、是非玉蓮娘子も共においでください。歓迎致します」

「はい!」

「何が『はい』だ!遊びに行くんじゃないんだぞ」

全力で否定する皇毅だが、玉蓮は聞こえない振りを決め込んでいた。
その姿も陵容はとても気に入った様子だった。






−−−−−−−−−−−−



紅州からの客人を見送った後、静かになった邸に一息ついて皇毅は気になっていた事を改めて口にした。

「それで結局、あの天和は何だったんだ」

「え、……何だったんだと問われましても、幸運だったとしか」

「幸運などで都合よくあの役満が作れるわけないではないか!」

イカサマにも通じた麻雀の達人である三人を前にして、どうやって配牌の時点で役を完成させたのだろうか。
そして九連宝燈を作る際、皇毅は玉蓮が確かに、もたもたと手の中にすり替える牌を握ったのを横目で確認していた。

しかし広げた手の中には牌が無かったので握り損なったと思っていたのだが、今考えると……。


アレも何か妙だ。


頬をひきつらせて上から睨み付ける皇毅。


「ふふ、……」


玉蓮は困ったように眉を下げ、しかし至極優雅に微笑んだ。














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